大判例

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福岡高等裁判所 平成3年(行コ)7号 判決

控訴人

佐伯労働基準監督署長

斎藤克己

右訴訟代理人弁護士

中野昌治

右指定代理人

菊川秀子

外七名

被控訴人

野中トシ子

右訴訟代理人弁護士

河野善一郎

安東正美

加来義正

吉田孝美

徳田靖之

岡村正淳

濱田英敏

柴田圭一

牧正幸

西田收

古田邦夫

安部和視

工藤隆

指原幸一

神本博志

西山巌

一木俊廣

佐川京子

麻生昭一

山崎章三

平山秀生

鈴木宗厳

河野聡

瀬戸久夫

主文

原判決を取り消す。

被控訴人の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一  控訴の趣旨

主文同旨

第二  事案の概要

一  被控訴人の夫野中政男(以下「政男」という。)は長期間にわたり粉じんの飛散する場所における業務に従事してきたが、じん肺に罹患し更に合併症である肺結核に罹患した後に、肺がんで死亡した。被控訴人は、控訴人に対し、労働者災害補償保険法(以下「労災保険法」という。)による遺族補償給付及び葬祭料の給付を請求したところ、控訴人は政男の死亡は業務に起因するものではないとして、これらを支給しない旨の処分をした。本件は右不支給処分の取消しを求める抗告訴訟である。

二  基本的事実と争点

1  災害補償事由の発生

(一) 政男の粉じん作業歴

(1) 政男(大正一二年九月二五日生)が、昭和二四年三月から昭和四七年五月までの間、次のとおり粉じん作業に従事したことは当事者間に争いがない(但し、④の作業場所については争いがあるが、甲三〇、原審における被控訴人の供述、弁論の全趣旨により、このとおりと認める。)。

① 昭和二四年三月から昭和二七年四月まで津久見市小野田セメント内の川岸工業株式会社の事業場において修理アーク溶接作業に従事した。

② 昭和二七年四月から昭和三〇年一〇月まで小野田セメント内の中塚工業株式会社の事業場において場内修理アーク溶接作業に従事した。

③ 昭和三一年四月から昭和三三年六月まで小野田セメント内の戸畑製鉄株式会社の事業場において場内修理アーク溶接作業に従事した。

④ 昭和三三年六月から昭和三四年一〇月まで小野田セメント内の長門機械株式会社の事業場において工場内の集じん機補修アーク溶接作業に従事した。

⑤ 昭和三四年一〇月から昭和三五年六月まで大分鉱業株式会社の事業場において原石山坑内設備アーク溶接作業に従事した。

⑥ 昭和三六年一一月から昭和三八年一一月まで別府鉄工株式会社の事業場においてアーク溶接作業に従事した。

⑦ 昭和四三年二月から昭和四五年四月まで徳脇株式会社の事業場において原石山坑内設備アーク溶接作業に従事した。

⑧ 昭和四六年九月から昭和四七年五月まで津久見市小野田セメント内の星和工業株式会社の事業場において集じん機修理アーク溶接作業に従事した。

そして、前掲証拠によれば、①ないし④及び⑧の作業は、セメント原料等による多量の粉じんが発生・飛散している事業場におけるアーク溶接作業であり、⑤及び⑦の作業はトンネル坑内におけるアーク溶接作業、⑥の作業は鉄工所におけるアーク溶接作業であり、いずれの作業も多量の粉じんに暴露されるじん肺法施行規則二条に規定する「粉じん作業」に該当すると認められる。

(2) 被控訴人は、政男は昭和四五年四月から昭和四六年九月まで名古屋市内の生コンクリート会社で鉄骨の溶接作業に従事した旨主張する。そして、前掲証拠によれば、右事実を窺えないではないが、本件全証拠によってもその具体的な作業内容、作業場所の態様等が明らかでないうえ、政男が大分労働基準局長から後記昭和五五年六月二日付け「じん肺管理区分決定」(乙五の六)を受けるに先立って提出した「じん肺健康診断結果証明書」(乙五の七)の粉じん作業職歴欄には、右①ないし⑧の粉じん作業歴が詳細に記載されているのに、右名古屋市内での作業については何らの記載もないのであるから、たやすく政男が名古屋市内でじん肺法施行規則二条に規定する粉じん作業に従事していたとは認められない。

(二) 政男が罹患したじん肺の病態

(1) 政男は、大分県別府市の別府鉄工株式会社に勤務中の昭和三八年一一月頃肺結核に罹患し、昭和四一年頃まで別府市内の富士見病院、光の園、新別府病院で入院治療をし、その後昭和四三年二月頃まで自宅療養をしていた(甲三〇)。

(2) 政男は、昭和四八一一月頃、大分県佐伯市の医療法人長門莫記念会上尾病院(昭和五五年八月一日長門記念病院と名称変更、以下「長門記念病院」という。)で肺結核(再発)と診断され、じん肺の疑いもあると言われ、入退院を繰り返しながら、同病院で長門宏医師の治療を受け続け、じん肺法三条所定のじん肺健康診断を受けていたところ、大分労働基準局長から昭和五五年六月二日付けじん肺管理区分決定通知書一六七号をもって、じん肺による健康管理区分「エックス線写真の像PR1、肺機能の障害F+、じん肺管理区分管理二」、合併症肺結核と認められ、要療養(症状確認日、昭和五四年六月九日)との決定通知を受けた(乙五の一、六、原審での被控訴人の供述)。

(以下「PR」はじん肺法四条一項所定のエックス線写真の像の型、「F」は肺機能の障害の程度、「管理」は同条二項所定のじん肺管理区分を表示する。)。

(3) 佐伯労働基準監督署長は、昭和五五年一〇月二四日の調査で、政男は最終粉じん作業の事業場である前記星和工業株式会社において金属製品製造のアーク溶接作業に従事しており、また、昭和二四年三月頃から離職時の昭和四七年五月まで約一四年間近く工場内等においてアーク溶接作業に従事してきており、右疾病は労働基準法(以下「労基法」という。)施行規則三五条別表第一の二の五号に該当するものであるとして、業務上の疾病と認め、政男に対し休業補償給付及び療養補償給付を支給するとの決定をした(乙五の一)。

(4) 佐伯労働基準監督署長は、昭和五四年六月九日の療養開始から一年六か月以上経過したので、大分地方じん肺診査医滝隆医師(以下「診査医滝医師」という。)に政男の疾病の状況について意見を求めたところ、同医師は昭和五六年四月二三日に、政男のじん肺症につき「PR2、F+、管理三イ」、合併症、続発性気管支炎、要療養と診断し、傷病等級三級二号に該当するとの意見書を提出した。そこで、同署長は支給事由該当日を昭和五五年一二月九日として傷病補償年金支給に移行するとの決定をした(乙五の一、同一一)。

(5) その後、政男の主治医の長門宏医師は、佐伯労働基準監督署長に対し、傷病補償年金受給にともなう定期報告において、政男のじん肺症につき昭和五七年一月一二日付け「PR2/3、F++/+、管理四」合併症、肺結核、続発性気管支炎の診断書を提出している(乙五の一)。

(三) 政男の死亡

政男は、長門記念病院で通院治療を受けていたが、右肺野の空洞が大きくなり、肺結核の悪化と考えられて、昭和五七年一月六日同院に入院した。検査の結果結核菌が証明されず、同年五月二六日大分医科大学医学部付属病院(以下「大分医大病院」という。)に転院し、右下肺野に肺がんが発見され、更に肋骨に直接浸潤像が認められたため、同年六月二二日から放射線療法の目的で約三か月間大分県立病院に転院し、総量五〇〇〇RAdの放射線照射を受けた。その後、政男は、同年九月一七日再度大分医大病院に入院、追加療法を受けていたが、同年一一月に入り肺炎・肺化膿症を併発し、同月一九日死亡した(乙五の一、三、同四の一、二)。

(四) 政男の肺がんの部位・組織型、死因

大分医大病院での政男の主治医である後藤育郎医師の昭和五八年二月二日付け診断書(乙五の三)には、死亡原因として、「右下肺野肺がん周囲の血管の破裂、大量出血に伴なう出血死、原因は、肺がん周囲の炎症の為」と記載されている。

大分医大第一病理学教室による死亡当日の病理解剖の記録(甲三、乙一六の一、二、昭和五八年五月一七日付け)によると、政男の肺がんは右肺下葉S6の結核性空洞瘢痕より発生したと考えられる瘢痕がん(組織型、腺扁平上皮がん)であり、肺がんは右肺動脈、右臓側及び壁側胸膜、右肋骨、両側肺門リンパ節に転移または浸潤しており、右肺下葉の空洞から大量の喀血があり、両側気管支及び肺胞内に大量の血液を吸引しており、これが直接の死因となって死亡したとされている。

結局、政男の死因は肺がんを原因とする肺がん周囲の血管の破裂に因る喀血(大量出血)ということになる。

(五) 労災補償給付

控訴人は、政男が死亡するまで傷病補償年金給付を行っていた(乙五の一)。

2  原処分の存在

(一) 保険給付の請求

被控訴人は、昭和五七年一一月二七日、控訴人に対し、労災保険法による遺族補償給付及び葬祭料の給付を請求した(乙一、二、五の一)。

(二) じん肺症患者に発生した肺がんの補償行政上の取扱い

労働省は、都道府県労働基準局長に対し、じん肺症患者に発生した肺がんの補償行政上の取扱いに関し昭和五三年一一月二日付け基発第六〇八号労働省労働基準局長通達(以下「局長通達」という。)を発出している。これによると、①じん肺法によるじん肺管理区分が管理四と決定された者であって、現に療養中の者に発生した原発性の肺がんについては、労基法施行規則三五条別表第一の二の九号に該当する業務上の疾病として取り扱う、②現に決定を受けているじん肺管理区分が管理四でない場合又はじん肺管理区分の決定が行われていない場合において、当該労働者が死亡し、又は重篤な疾病に罹っている等のためじん肺法一五条一項の規定に基づく随時申請を行うことが不可能又は困難であると認められるときは、地方じん肺診査医に対し、じん肺の進展度及び病態に関する総合的な判断を求め、その結果に基づきじん肺管理区分が管理四相当と認められるものについては、これに合併した原発性の肺がんは前記と同様に取り扱って差し支えない旨定められている(乙一三)。

(三) 控訴人による政男の死亡の業務上外についての調査

控訴人は、被控訴人からの遺族補償給付及び葬祭料の給付請求を受けて、政男のじん肺の程度につき関係医師の意見を踏まえ調査したところ、政男のじん肺に関する診断経過は、前記のとおり、大分労働基準局長から昭和五五年六月二日付けをもってじん肺による健康管理区分「PR1、F+、管理二」・合併症肺結核・要療養と決定をされた後、診査医滝医師による昭和五六年四月二三日の「PR2、F+、管理三イ」・合併症、続発性気管支炎、要療養との診断、長門宏医師による昭和五七年一月一二日の「PR2/3、F++/+、管理四」合併症、肺結核、続発性気管支炎との診断がされていた。

そして、更に長門宏・三浦肇両医師から昭和五八年一一月二日付けで、「PR2/3、F++、管理四」合併原発性肺がん(扁平上皮がん+腺がん)であり局長通達による業務上死と取り扱うべきであるとの連名の診断意見(乙五の二)が提出され、また、前記のとおり、大分医大病院後藤育郎医師から提出された昭和五八年二月二日付け診断書(乙五の三)には「死亡原因は右下肺野肺がん周囲の血管破裂、大量出血に伴う出血死。死亡原因とじん肺との因果関係については、じん肺と肺がんとの関係は不明だが、既往に陳旧性肺結核は存在しており、この肺結核はじん肺に合併したと考えられる。さらに、病理学的にも陳旧性肺結核(S2エリア)の既存の肺病変に肺がんは隣接しており、死亡原因である血管破裂の原因となりえた可能性は否定できない。なお、肺がんと肺結核の発生の関係ははっきりしない。」と記載されていた。

そこで、控訴人は、局長通達に基づき、診査医滝医師に対し、政男のじん肺の進展度及び病態に関する総合的な判断を求めたところ、同医師は昭和五八年一一月二四日付けで「前記長門宏医師による昭和五七年一月一二日付け『PR2/3、F++/+、管理四』の判定は肺機能検査結果よりみてF++とは認め難くF+であり、管理三イが相当である。また、大分医大病院後藤育郎医師の診断書では、傷病名が肺がん、じん肺、陳旧性肺結核、肺化膿症となっており、死亡原因は肺がんと診断されている。したがって、結論としては、じん肺管理区分管理三イで、肺がん死亡であるから、労災補償の対象にならない。」との判断を寄せた(乙五の一ないし五)。

(四) 不支給決定

控訴人は、昭和五九年三月二三日、局長通達に従い、政男は死亡当時じん肺法によるじん肺管理区分が管理四の決定を受けておらず、かつ管理四相当とも認められないし、政男のじん肺症と死亡原因である肺がんとの因果関係は認められないから、政男の死亡は業務上によるものとは認められないとして、被控訴人に遺族補償給付及び葬祭料のいずれも支給しない旨の決定(以下「本件処分」という。)を行い、同日被控訴人に対しその旨を通知した(乙一ないし三、五の一)。

3  不服申立て

(一) 審査

被控訴人は、本件処分を不服として、大分労働者災害補償保険審査官に対して審査請求をした。しかし、同審査官は昭和六〇年一二月一〇日付けで右審査請求を棄却する旨の決定をし、被控訴人に対しその旨通知した。

右審査請求の審理の過程で、同審査官から鑑定の依頼を受けた大分地方じん肺診査医の小野庸医師は「昭和五七年一月一二日撮影のじん肺エックス線写真によると、主として径1.5ないし3mmgの粒状陰影が両肺野に多数認められ、じん肺一二階尺度にて2/1を呈し、大陰影がないので、じん肺法によるエックス線写真の像第二型と判定する。昭和五六年三月一四日及び同年一一月二日実施の肺機能検査成績によれば、肺機能の判定はF+とするのが相当である。したがって、管理区分は管理三イである。その後肺結核、肺がんの進展にともない当然肺機能障害の程度は進展したであろうが、死亡前までじん肺によるエックス線像の変化はないから、死亡時における管理区分も当然管理三イと考える。」と判定している(乙一二、二〇の一、二)。

(二) 再審査

被控訴人は、更に右決定を不服として、労働保険審査会に対して再審査請求をした。同審査会は、昭和五七年一月一二日撮影のじん肺エックス線写真、昭和五六年三月一四日及び同年一一月二日実施の肺機能検査結果を取り寄せて検討し、じん肺エックス線写真像は2/1、第二型、肺機能はF十であるとし、政男のじん肺の管理区分は管理三イに該当し、管理四相当に至っていなかったと認めた。そして同審査会は、じん肺と肺がんとの関係に関する医学上の見解についても検討を加えた上、両者間には医学上深い相関があるとの合意はないと結論し、両者の関係は局長通達により措置するのが妥当であるとして、昭和六三年七月二八日付けで右再審査請求を棄却する旨の決定をし、被控訴人に対しその旨通知した(甲一)。

4  政男のじん肺の管理区分

政男のじん肺の管理区分に関する前記認定の専門医の各所見を総合すれば、政男のじん肺の管理区分は管理三イであったと認めるのが相当である。

5  争点の把握

(一) 被控訴人は、政男の罹患していた肺がんは業務上の疾病と認められるから、同人の死亡は業務上の事由によるものであるのにかかわらず、右肺がんを業務上の疾病と認めないで、同人の死亡にかかる遺族補償給付及び葬祭料についていずれもこれを支給しない旨の決定をした本件処分は違法であると主張し、控訴人は右肺がんは業務上の疾病とは認められないと主張する。

(二) 被控訴人に政男の死亡にかかる遺族補償給付及び葬祭料を支給するためには、右死亡が業務上の事由によるものであること、すなわち右死亡原因である肺がんが業務上の疾病であると認められなければならず、かつそれで足りるものである。そして、右業務上の疾病とは、労働者が業務上かかった疾病、すなわち、業務と相当因果関係のある疾病をいうのであるから、結局右肺がんが業務上の疾病であると認められるためには、右肺がんの発症が政男の従事した業務と相当因果関係にあると認められなければならないことになる。

(三) 業務上の疾病に罹患した場合の災害補償については、業務上の負傷の場合と同じく、労基法七五条以下に災害補償責任が規定されており、労災保険法に基づく保険給付は労基法に規定する災害補償事由が生じた場合に行うものとされていること(労災保険法一二条の八第二項)から、労災保険法七条一項一号の「業務上の疾病」は、労基法七五条以下の「業務上の疾病」と同じものと解すべきである。そして、同法七五条二項は、業務上の負傷が災害を媒介とするため一般に業務との因果関係が明瞭である場合が多いのに比べて、業務上の疾病、殊に職業性疾病(災害を媒介とせず、漸進的な疾病の原因となる事象、すなわち、業務に内在ないし通常随伴する有害因子の長期間の暴露により発生する疾病であって、医学経験則上職業病と認められないかぎり私疾病として見過ごされやすい。)にあってはそれが業務により生じたものであるか否かが不明瞭であり、それに罹患した労働者がその業務起因性を立証することにしばしば多くの困難を伴うことが多い。そこで、労基法七五条二項の規定を受けた同法施行規則三五条は、同規則別表第一の二第二号から第七号において、当該具体的業務に労働者が従事することによって、その業務が含んでいる特定の有害因子により、労働者に当該具体的な疾病が発症し得ることが医学経験則上一般的に認められている類型を定め、第八号は、今後の医学的研究の進展に伴って新たな業務ないし疾病を具体的に類型化して列挙することが可能になった場合に備えて「前各号に掲げるもののほか、中央労働基準審議会の議を経て労働大臣の指定する疾病」を追加的に列挙することを予定したものである。また、すべての業務上の疾病を類型化することは不可能であり、医学経験則の進歩に対応するため、いずれの号においても、「業務上の疾病」と認めるための包括的規定(例えば、第七号の18では、「1から17までに掲げるもののほか、これらの疾病に付随する疾病その他がん原性物質若しくはがん原性因子にさらされる業務又はがん原性工程における業務に起因することの明らかな疾病」と規定している。)が設けられているほか、第九号においては、「その他業務に起因することの明らかな疾病」という包括的規定を設けている。

じん肺に関しては、同別表第一の二第五号において「粉じんを飛散する場所における業務によるじん肺症又はじん肺法に規定するじん肺と合併したじん肺法施行規則第一条各号に掲げる疾病」をもって業務上の疾病として規定している。同規定の「じん肺症」とはじん肺のうち療養を要するものを指すと解され、じん肺法二三条においては、じん肺管理区分が管理四と決定された者及び合併症に罹っている者は療養を要するものとすると規定している。

以上のとおり、じん肺症及び合併症については、業務上疾病として規定されているが、じん肺患者が罹患した原発性の肺がんについては、「肺がん」がじん肺法施行規則一条各号に掲げられていないから、右別表第一の二第五号には含まれないこととなる。したがって、じん肺患者が罹患した原発性の肺がんが業務上の疾病と認められるには、同別表第一の二第九号の「その他業務に起因することの明らかな疾病」に含まれなければならない。

(四) 他面、前記のとおり労基法施行規則別表第一の二第五号は「粉じんを飛散する場所における業務によるじん肺症又はじん肺法に規定するじん肺と合併したじん肺法施行規則第一条各号に掲げる疾病」をもって業務上の疾病と認めており、じん肺法施行規則一条の各号には「肺結核、結核性胸膜炎、続発性気管支炎、続発性気管支拡張症及び続発性気胸」が合併症として掲記されている。したがって、政男が罹患していたじん肺に合併した肺結核が業務起因性を有することは明らかである。そうすると、政男が罹患していたじん肺に合併した肺結核と同人の死亡原因となった肺がんとの相当因果関係が認められれば、結局政男の死亡も業務上の疾病によるものと認められることにはなる。

(五) そして、先に認定した労基法施行規則三五条が定める職業性疾病に関する規定の構造に照らすと、同規則別表第一の二第二号から第七号までの職業性疾病(例示疾病)は、「当該業務に伴う有害因子に因って当該疾病が発症し得ること」が「医学的知見において一般的に認められている」ものを具体的に規定したものであるため、被災労働者側はかかる一般的医学経験則についての立証の負担を免れることになる。したがって、被災労働者側は、「当該疾病を発症させるに足りる条件のもとで業務に従事してきたこと」、及び「当該疾病に罹患したこと」を立証しさえすれば、「特段の反証のない限り」業務起因性が事実上推定されることになるのである。

これに対し、第九号の「その他業務に起因することの明らかな疾病」は、業務と疾病との一般的医学的経験則の存在が明らかでないため、当該疾病が業務に内在ないし通常随伴する有害因子の長時間の暴露により発生したものであることを個別、具体的に主張・立証しなければならないことになる。この場合、労基法施行規則三五条の規定が、例示疾病に関し、業務起因性の立証の負担を軽減する機能を持つのは、当該業務に伴う有害因子に因って当該疾病が発症し得ることが一般的な医学経験則による認識の一致があることに依拠していることに鑑みると、じん肺と肺がんとの関連性に関する医学的知見に基づいて、政男のじん肺と肺がんとの間に因果関係があると推定するためには、その医学的知見は、例示疾病の場合に準じる程度に一般的な医学経験則として共通の認識になっていることを要するものというべきである。しかして、労働者に生じる疾病については、一般に多数の原因又は条件が競合しており、後記のとおり、肺がんの発症についても、職業的有害因子のほか、喫煙、遺伝的体質、年齢等諸要因が複雑に絡み合っていると考えられるのであるから、単に当該業務に従事していたことと発症したという条件関係があるだけでは足りず、他の諸要因も含めて、業務が肺がん発生に対し、客観的、相対的に有力な原因であると認められなければならない。労働者災害補償責任が、使用者に対し、その支配下にある当該業務に内在ないし通常随伴する危険の故に、これに因り労働者に生じた損失を填補させる無過失責任であることに照らすと、業務が肺がん発生に対し、客観的、相対的に有力な原因であって始めて、肺がんが当該業務に内在ないし通常随伴する危険が現実化したものと考えられるからである。

(六) よって、本件の争点は、政男のじん肺と肺がんとの間に、ないし、政男のじん肺に合併した肺結核と肺がんとの間に、相当因果関係が肯定されるかどうかにある。

6  争点に関する被控訴人の主張

(一) 一般的因果関係

労働省が設置した「じん肺と肺がんとの関連に関する専門家会議」の昭和五三年一〇月一八日付け検討結果報告書を始め国内外の幾多の調査・研究によれば、じん肺に原発性肺がんが合併する比率は極めて高く、両者の間に強い相関関係が認められているのであるから、じん肺と肺がんとの間には、法的な意味において、一般的に相当因果関係を認めるべきである。

(二) 政男の場合における個別的因果関係

仮にじん肺と肺がんとの間に一般的に相当因果関係が認められないとしても、政男の肺がんは、じん肺に合併した陳旧性肺結核の空洞瘢痕から生じた瘢痕がんであるから、じん肺に罹患していなければ肺がんにならなかったであろうという意味で、個別的には当然に相当因果関係が認められるべきである。

(三) したがって、政男の罹患していた肺がんは業務上の疾病と認められるから、同人の死亡は業務上によるものであるにもかかわらず、右肺がんを業務上の疾病と認めないで、同人の死亡にかかる遺族補償給付及び葬祭料についていずれも支給しない旨の決定をした本件処分は違法である。

7  争点に関する控訴人の主張

(一) 一般的因果関係

被控訴人の主張は、じん肺患者の肺がん合併率が一般の肺がん発生率に比して多い、そして、じん肺と肺がんとの間に何らかの関連性を認める報告が存するということに尽きる。しかし、前記専門家会議の報告書を含めて国内外の研究報告によっても、じん肺の原因物質であるけい酸又はけい酸塩の発がん性についてはこれを積極的に肯定する見解は得られていない。病理学的検討結果によってもじん肺合併肺がんの組織像や原発部位について、その特異性は認め難く、またじん肺の進展度と肺がん発生との間に量・反応関係も認められていない。じん肺性変化の発生母地説も根拠に乏しい。また、じん肺と肺がんの合併頻度についての諸々の調査報告については、調査の基礎資料や調査方法に種々の問題がある。じん肺と肺がんとの関係は、病理学的及び疫学的調査研究報告によっては未だ未解決の課題であり、両者の一般的因果関係は認められていない。

(二) 政男の場合における個別的因果関係

じん肺の原因物質である珪酸又は珪酸塩に発がん性のないことは医学上の定説である。他方、喫煙が肺がん発生の第一リスクであることは多くの疫学的研究及び実験的研究において確定されている。政男は重喫煙者であり、喫煙が原因となって肺がんに罹患した蓋然性が強いのであって、政男の肺がんの発生部位がじん肺合併肺結核の空洞瘢痕であるからといって、発がん物質等の存在ないし発がん作用等を明らかにしないまま、じん肺ないしじん肺合併肺結核と肺がんの因果関係を認めることはできない。

(三) 結局、じん肺と肺がんとの関連については、症例報告や合併頻度に関する報告は増えているが、その発生メカニズムについては未だ定説はみられず、したがって、医学的に因果関係は認められていない。また、外因性の肺がんには、職業性のがん原性因子暴露に起因するもののほかに、喫煙のように非職業性の原因によるものも含まれるので、単にがんの組織型とか原発部位のみから、直ちに職業性のがんであると判定することは困難である。

こうした現状にかんがみ、前記専門家会議の報告を踏まえて、じん肺と肺がんとの関係について、労働省は前記局長通達を発して、これにより措置すべきものとする基準を設定したものである。すなわち、同通達は、じん肺と肺がんとの因果関係は医学的に明確でないが、高度に進展したじん肺の存在が肺がんの進展あるいはその予後に悪影響を及ぼすこと等の医学的見解から、特例的な行政上の措置として、じん肺管理区分が管理四と決定された者又は管理四相当と認められる者で現に療養中の者に発生した原発性の肺がんのみを、業務上の疾病として取扱うこととしたものであって、同通達は十分合理的な根拠を有するものである。したがって、政男の所見をこれに適用した場合に管理区分三にすぎなかった本件においては、業務起因性を認めることはできないものといわざるをえない。

第三  争点に対する判断

そこで、政男のじん肺と肺がんとの間に、ないし、政男のじん肺合併肺結核と肺がんとの間に相当因果関係が肯定されるか否かについて検討する(書証として提出された文献の著者名、表題、掲載雑誌名その他は別表のとおりである)。

(目次)

一  じん肺と肺がんとの関連に関する先駆的ないくつかの医学的研究

二  専門家会議の設置と検討結果報告の概要

三  専門家会議報告書以後のいくつかの医学的研究

四  じん肺と肺がんの関係についての国際的知見

五  けい酸ないしけい酸塩の発がん性についての知見

六  じん肺と肺がん発生の病理学的説明

七  相対危険度の数値的意味

八  喫煙と肺がん

九  被控訴人の主張について

一 じん肺と肺がんとの関連に関する先駆的ないくつかの医学的研究

佐野辰雄(甲一一、昭和四二年)は「じん肺症の組織変化と肺がんの関係が密接である」と指摘し、藤澤泰憲、菊地浩吉(甲一三の二、昭和五〇年)は、昭和三一年から四八年までの岩見沢労災病院におけるけい肺症の剖検例二二九例中肺がん合併は三七例(16.2%)であり、昭和四一年から同四三年までの全日本死亡の肺がん率を対照群とする相対危険度は6.6であったとしたほか、菊地ら(甲一三の三、昭和五〇年)、菊地ら(甲一四)、藤澤(甲一六の二、三、昭和五〇年)、佐野(甲九の一ないし五、昭和五二年)は、けい肺と肺がんの関連について病理学的、統計的、病理組織学的な研究を重ねてその解明に努めてきた。

菊地(甲一七、昭和五三年)は「じん肺と肺がんとの関連は、他の職業がんとは同一に律しきれないむずかしい問題を含んでいる。じん肺と一口にいっても、その原因は多様であるし、これに伴う二次的な炎症性変化の質、量が異なるし、同時に吸入される他の物質の質、量もまた粉じん環境によって大きく相違する。喫煙因子についても大きな影響があると思われる。したがって、じん肺と合併肺がんの因果関係の立証はきわめて困難である。多くの疫学的、病理学的研究によりその相関関係が強く示唆されているが、決定的な結論には、今後の解明に待たねばならない多くの医学的課題が残されている。しかしながら、実際面からながめると、じん肺という肺組織の修飾が何らかの原因による肺がんの発生を促進していることはほぼ確かと考えられるし、じん肺の存在は肺がんの早期診断を妨げ、内科的・外科的治療の適応を狭め、予後を悪くする因子として働くことはまちがいない。」としている。

二 専門家会議の設置と検討結果報告の概要

1  労働省労働基準局長は、珪肺労災病院の千代谷慶三を座長とし、じん肺の臨床研究、病理学、労働衛生、疫学等各部門の専門家を構成員とする「じん肺と肺がんとの関連に関する専門家会議」(以下「専門家会議」という。)を設置し、これに「じん肺による健康障害についての検討」を委嘱した。専門家会議は、昭和五一年九月以降右検討を行い「じん肺(右綿肺を除く)に原発性肺がんを合併する症例は、諸外国では一九二〇年代より、わが国では一九四〇年代後半より報告がみられるようになり、近年その数が次第に増大してきている。これに伴いじん肺とこれに合併した肺がんとの間に因果関係が存在するか否かが注目され、これまでのところこれに関連する調査結果や意見がそれぞれ数多く出されていて、いずれの見解が支配的とも断定し難い状況にある。じん肺と肺がんの因果関係に関するレポートを概括的に見直し、最近の知見を加えて現時点における両者の因果関係に関する意見をとりまとめた。」として、昭和五三年一〇月一八日付け「じん肺と肺がんとの関連に関する専門家会議検討結果報告書」(以下「専門家会議報告書」という。)(乙一四)を作成し、これを労働省労働基準局長に提出し、その検討結果を報告した。これによると、その概要は次のとおりである。

2  概要

(一) 粉じんの発がん性について

無機粉じんの発がん性については、従来よりクロム、ニッケル、ベリリウム、石綿等による肺がん発生の動物実験の研究があり、その他発がん性が疑われる粉じんとしてはコバルト、酸化鉄等があげられている。一方、けい酸またはけい酸塩粉じんの発がん性については、一部に長期粉じん暴露実験において悪性腫瘍発生の陽性成績が得られたとの報告があるが、これまでの諸家の報告の多くは、これらの粉じんの発がん性については否定的な見解を示している。したがって、現時点においては、この種の粉じんの発がん性についてこれを積極的に肯定するような見解は得られなかった。

(二) じん肺とこれに合併した肺がんとの病因論的因果性について

(1) 実験病理学的成果について

吸入された粉じんは、その物理化学的特性によって気管支、細気管支、肺胞を含む気道系及びその周囲の間質組織、肺内リンパ組織、胸膜等に複雑な生体反応を惹起し、いわゆるじん肺性病変を発生させる。その生体反応の場は細気管支、肺胞系が中心である。この病変に急性及び慢性の感染症等による修飾も加わって、究極的には気道変化、肺の線維化、気腫化等の様々なパターンのじん肺性変化に至るものである。

じん肺に合併した肺がんは、このようなじん肺性変化の進展過程のいずれかの時点において発生するが、両者の間の病因論的関連性については、いまだ不明の点が多い。

一方、これらを解明する有力な手段として実験病理学的手法があるが、右課題に即応しうる実験モデルの作成は今日極めて困難であり、したがってこれまでの実験成果から得られる情報は乏しく、かつ限られた範囲のものでしかない。

(2) 病理学的検討について

じん肺と肺がん発生の因果関係を病理形態学的観点から確かめることは難しい。剖検された多くの症例が進行した肺がんであるためである。しかし、比較的早期の肺がんとじん肺の組織学的関係の検討やじん肺に合併した肺がんと一般の肺がんの比較等を行えば、その因果関係の有無について何らかの示唆を得る可能性がある。

外因性肺がんの組織型は扁平上皮がんが多いとされ、じん肺に合併した肺がんも扁平上皮がんが多い傾向にあるとされているが、一般の肺がんに比較して統計学的に有意差はない。原発部位は、石綿肺における肺がんと同様に下葉に多く、一般の肺がんが上葉に多いことと比較して対照的であるとされている。

しかし、外因性の肺がんには職業性のがん原性因子暴露に起因するもののほかに、例えば、喫煙のような非職業性の原因によるものが含まれるので、単にがんの組織型とか原発部位のみから直ちに職業性のがんであるか否かを判定することは困難である。

じん肺の程度と肺がん合併の関連については、肺がん合併例をじん肺エックス線病型別にあるいは病理組織学的に観察して、じん肺病変の程度が高度なものよりもむしろ中程度または軽度のじん肺に肺がん合併が多いとする報告がある。これは一見粉じんの吸入量と肺がん合併頻度との間に量・反応関係を欠いているように見える。しかし、じん肺における病変は極めて多彩であり、重症例は比較的若年で死亡すること等を考えると、じん肺性病変の程度と肺がん合併率との関係のみをもって直ちに両者の間の量・反応関係を否定し去ることはできない。

じん肺に合併した初期の微小がんの病理組織学的観察では、けい肺症病変とがん病巣との間の密接な接触性と病理組織学的変化の連続性を認めた報告があり、厳密な瘢痕がんの病理学的診断基準に適合する例もあげられている。一方、じん肺性変化には気管支上皮細胞の増殖像、特に異型増殖像を伴うことがしばしばあり、慢性気管支炎、細気管支炎等を背景にした肺間質性線維症では末梢気道上皮の腺様増殖が多く、これらが発がんの母地となり得る可能性がある。岩見沢労災病院の剖検例では、ほとんどのじん肺例(一二四例中一〇九例、八八%)に程度の差、組織像の差はあれ、急性及び慢性気管支炎の病理組織像が確認された。粘膜上皮の変化は気管支炎と必ずしも平行しないが、じん肺における基底細胞増殖の頻度が高いことは気管支炎に基づくと考えられる。藤澤(甲一六の三)は、基底細胞増殖自体はがん発生と直接結びつくとはいえないが、じん肺における長期間持続する刺激とこれに基づく慢性炎症、上皮の増殖性変化は発がん母地となる可能性が大きいとしている。

じん肺においては、慢性気管支炎、細気管支炎等を背景とした慢性肺間質性線維症はしばしば認められ、これに細気管支、肺胞の著明な拡張を伴った峰窩肺が生ずることが多い(じん肺一二六例中一六例、12.7%)。注目すべきは、この病変には末梢気道上皮の腺様増殖が必発なことである。菊地ら(甲一四)はこのようなじん肺性慢性炎症、肉芽組織あるいは瘢痕が気管支上皮、末梢気道上皮の病的増殖をおこすことによって生ずる通常の意味の瘢痕がん発生の可能性をまずあげている。次にじん肺性瘢痕が同時に吸入された何らかのがん原物質を肺内に停滞、局在させる可能性をあげている。

竹本和夫(昭和四四年「粉じんと肺がん」)も、じん肺性瘢痕は肺間質、肺胞、末梢気管支上皮に剥離、修復機転を繰り返しおこさせたり、粉じんの停滞が気管支粘膜上皮を刺激し慢性炎症性変化を起こし、さらには上皮の化生増殖を起こしてがん発生の母地となる可能性を述べている。

しかし、現状では以上の事実をもってしても、病理形態学的立場からじん肺性変化が肺がんの発生母地となり得ると断定するには証拠に乏しい。今後じん肺における上皮内がん症例の成績の蓄積がなされ、それらとじん肺病変との病理組織学的連続性が証明されて初めてじん肺と肺がんの因果関係の存在が結論されると考えられる。

(三) じん肺と肺がんの合併頻度について

(1) じん肺剖検例の検討

剖検材料による肺がん合併頻度に関する内外の報告には、頻度が高いとするものと高くないとするものがあってその傾向は一定しないが、一九六〇年(昭和三五年)以降の報告に限ってみれば、高い合併頻度を指摘するものが多い。

日本病理学会編集の日本病理剖検輯報(以下「剖検輯報」という)はわが国の大病院、大学病院のすべての剖検例を網羅し、わが国の剖検例のほとんど全例が収録されており、世界的にその量と正確度で最も信頼できる資料であり、一方岩見沢労災病院は、北海道地域のじん肺患者の約七〇%が受診し、死亡したじん肺患者の約七五%(昭和四七年から五一年までの平均値)を取扱い、じん肺のセンター病院としての機能をもち、かつ同病院で死亡したじん肺患者は特殊事情がない限り全件剖検されており(昭和三一年から五二年まで三二八例で全体の94.3%)、医師側の選択の可能性が少ないから、両者の各調査成績(前者については昭和三三年から四九年、後者については同三一年から五一年)をもって現時点において最も信頼するに足りるじん肺剖検統計の資料であると考え、これらの資料と厚生省死因別統計とを比較検討した。

それによれば、じん肺患者の肺がん合併率は、岩見沢労災病院剖検例では、初期の武田勝男ら(昭和三九年)の二〇%、次いで菊地浩吉ら(昭和四五年)の16.7%、藤澤泰憲(昭和五〇年)の16.2%、奥田正治ら(昭和五〇年)の15.8%、さらに昭和五一年一二月現在では剖検総数三二七例中四九例(15.0%)を示しており、剖検総数が増加するにつれて若干減少の傾向を認めるが、それでも15.0%という高率を保持している。一方、昭和三三年から四九年までの剖検輯報に登録されたじん肺剖検例は一一七二例あり、うち一七九例(男子一七五、女子四)(15.3%)に肺がんの合併を認めた。この比率は岩見沢労災病院剖検例とほとんど一致する。一般に剖検例には医師側の選択が入り、特に悪性腫瘍に偏りがみられる傾向があるが、岩見沢労災病院の如くほぼ全例が剖検される施設における成績と全日本じん肺剖検例の成績が一致することは決して偶然とは考えられない。実際、肺がん合併率が北海道のみならず、四国(症例数が少ないため44.4%)を除く各地域とも一〇ないし二〇%、平均15.3%という高率を示し、また職種別でみてもほぼ一四ないし一六%の程度で肺がん合併の認められたことは、じん肺における肺がんの合併が単なるサンプリングの偏りによるものでなく有意に頻度の高いことを示唆している。

なお、男子のみの全悪性腫瘍に対する肺がんの割合は、全国じん肺剖検例(昭和三三〜四九年)46.1%、岩見沢労災病院剖検例(昭和三一〜四八年)47.1%で、厚生省人口動態統計(昭和四九年)13.2%より高く、全死亡に対する同割合も前者で15.7%、後者で15.8%と人口動態統計の2.6%の約六倍を示している。口腔・咽喉がんは、人口動態統計の全死亡に対する割合0.2%に比較すると、全国剖検例は1.3%、岩見沢労災病院剖検例では0.8%で、それぞれ6.5倍、四倍と高い。一方、胃がんをはじめその他の悪性腫瘍ではほぼ同率かあるいは低い。このことからけい酸を含む粉じんは上部呼吸器及び下部呼吸器に対して発がん性を促す方向に作用している可能性がある。

(2) 一般医療機関におけるじん肺合併肺がんについて

じん肺患者の医療を担当する全国一般病院施設における外来、入院患者の調査結果では、初診時に肺がんの症候のあったものが五六%を占めていたが、全体として肺がんの合併頻度は高い傾向にあった。

それらの症例の肺がん発見時のじん肺X線病型は、軽度もしくは中等度進展例が過半数を占めていた。

右のとおり、じん肺患者のうち剖検が行われた集団のみならず、けい肺を主体とするじん肺で療養中の患者集団においても、肺がん合併率が高い傾向が窺われる。

(3) じん肺と肺がんとの合併に関する疫学的考察について

じん肺患者における肺がんの合併について、臨床病理学的ならびに臨床疫学的ないくつかの報告を中心に、他のがん原性物質が関与する職業がんと比較しつつ、疫学的立場から、関連の普遍性、時間的関係、関連の強さ、関連の特異性、他の生物学的所見との一致性の各項目に着目して検討を加えた結果は、以下のとおりである。

クロム酸塩製造工程における肺がん、ベンジンまたはベーターナフチルアミンによる尿路系腫瘍のようないわゆる職業がんのクライテリアに入れられているものは、どの地域のどの調査でも、がん原性因子暴露集団の中に特定のがん発生のリスクの高いことが知られている。

けい肺合併肺がんについては、わが国の臨床病理学的調査及び臨床疫学調査は、どのけい肺集団をとってみてもすべて肺がん合併率の高い蓋然性のあることを示唆しているが、その程度は調査で若干異なっており、外国における調査でも、けい肺に肺がんの合併する頻度は高低さまざまで一定していない。また、国内外ともほとんどの調査が一般人口を基礎としていないので、そのまま比較することは困難であり、その評価にも限界がある。

原因と結果の時間的関係については、けい肺合併肺がんはけい酸またはけい酸塩粉じんの暴露開始後概ね一〇から四〇年経過後に発症しており、大部分が二〇年以上経過後であることは、既知の職業がんの場合に似ている。

けい肺の肺がん合併のリスクは、既知の職業がんにおけるリスクに匹敵するほど高いものは認められず、肺がん発生の明らかな量・反応関係も認められない。ただし、全国的に見てけい肺有所見者ではX線写真像のPR1からPR2が大部分を占めていること、重症例はより若年で死亡することを考えると、量と反応の関係は全く存在しないとはいいきれない。

けい肺合併肺がん症例には特異な知見は得られていない。けい肺が大多数の肺がんに認められるという事実はない。

肺がんの組織型についてみると、扁平上皮がんが一般の肺がんに比して若干多く、腺がんが少ない傾向にあるが、他の職業がんの場合と同じという程顕著でない。がん発生の部位は、けい肺例では肺下葉に多い特徴を有し、石綿肺合併肺がんの場合に類似している。なお、一般の肺がんは上葉に多い。

現在けい酸又はけい酸塩粉じんに明らかながん原性があるとの報告はない。

(四) 総括的考察

以上を総括して考察すると、けい肺と肺がんとの間に何らかの関連性のあることは強く示唆されるが、一方既知の職業がんと同一のレベルで論ずることができないことも事実である。検討した資料が既知の職業性肺がんに比べて量的に少ないこと、質的にも関連性の強さの程度が明らかでないことが確定的な結論を引き出し得ない主因である。

(五) じん肺合併肺がんに対する行政的保護措置の必要性について

以上の成績を総括すると、じん肺と合併肺がんとの因果性の立証については、今日得られている病理学的並びに疫学的調査研究報告の多くをもってしても、なおかつ病因論的には今後の解明にまたねばならぬ多くの医学的課題が残されている。そしてこのことは、単にわが国のみならず諸外国においても同様の傾向にあると考えられる。

しかし一方、わが国のじん肺と肺がんの合併の実態は、じん肺剖検例並びに療養者において高頻度であることが明らかである。また、肺がんはじん肺進展過程の様々な次元においてそうした傾向の合併が認められることを示唆した報告がある。しかもじん肺合併肺がん患者を取り扱った一般医療機関の臨床医師により、①肺がんの早期診断がしばしば困難となる、②肺がんの内科的、外科的適応が狭められる、③じん肺と肺がんの両者の存在のもとでは一層予後を悪くする等種々の医療実践上の不利益が指摘されている。加えて、これら臨床医師の多くがかかる患者に対して何らかの行政的保護措置の必要性を指摘していることは看過できない。

したがって、じん肺に合併した肺がん症例の業務上外の認定に当たっては、これらのじん肺に罹患した者の病態と予後にかかわる実態が充分に考慮され、補償行政上すみやかに何らかの実効ある保護施策がとられることが望ましい。

3  要するに、専門家会議報告書は、それまでに入手できる国の内外の文献を収集して綿密に評価し、当時におけるもっとも妥当な理解に近ずこうとしたものである。同報告書の中心を流れる考え方を要約すると、石綿肺を除くじん肺と合併肺がんの関連について、直接的な因果関係を主張するに足る知見は、国の内外を問わず得られておらず、むしろ、因果関係の存在を否定する見解が、支配的であることを述べたものである。しかし同時に、じん肺管理四で療養している患者の療養を担当している医療機関から、じん肺合併肺がん発生率が、わが国の一般的男子人口の肺がん発生率よりも高い傾向があることが指摘されていることに留意し、将来の解明に俟つべきことを併せて述べているものである(乙五八、千代谷慶三作成の意見書)。

三 専門家会議報告書以後のいくつかの医学的研究

1  千代谷(甲一五の二、昭和五六年)は、昭和四六年から五四年の間に珪肺労災病院において療養した患者集団の中から、療養経過中新たに発生した原発性肺がん症例について調査し、六〇才以上のじん肺症患者の肺がん死の相対危険度は一般人口に比べて4.28と高い、じん肺合併肺がんの早期診断は、胸部X線写真所見がじん肺由来の陰影に蔽われ、肺がん陰影の識別を困難にするため、一般の肺がん診断に比較して困難を伴った、と報告した。

2  安田悳也ら(甲一八の二、昭和五六年)は、昭和五〇年七月から五五年六月までの期間に岩見沢労災病院において診断したじん肺合併肺がん症例三七例についての臨床的検討を加え、その結果、いずれもじん肺症患者の肺がん発病率は一般人口にくらべて6.8倍であった、組織型は扁平上皮がんが多く、腺がんが少なかった、と報告した。

3  菊地、奥田正治(甲一五の三、昭和五六年)は、昭和三一年から五四年までの岩見沢労災病院におけるけい肺剖検例四〇六例を臨床病理学的及び統計学的に検討し、昭和三三年から四九年までの剖検輯報のじん肺剖検例一一七二例の統計的検討を加え、肺がん死の全死亡に占める割合は、じん肺患者は15.7ないし八%であるのに対し、一般人口の場合は2.6%である、肺がんの原発部位は下葉に多く、一般の肺がんに多いとされる上葉のほゞ二倍であった、組織型は扁平上皮がんが多い、微小がんにおける観察も、じん肺症が肺がんの母地となりうることを示唆するようにみえる。病理学の立場からは多く傍証がありながら、なおじん肺症が肺がんの母地になるという断定を下しえないのは、一つには量・反応関係を明らかにしえないこと、次に気道上皮系の異型増殖と、初期がんの間を埋めるようなcancer in situもしくは微小浸潤がんをまだ見出していないことによる、としている。

4  千代谷を主任研究者とし、その他に一二人の共同研究者で構成された「じん肺と肺がんの関連に関するプロジェクト研究班」(甲二七、昭和六二年、以下「千代谷プロジェクト研究」という)は、専門家会議報告書が石綿肺を除くじん肺症例にも高率の肺がん合併の可能性を指摘していることを踏まえて、より広く医療機関における医学情報を収集してじん肺と肺がんとの関連を明らかにすることを意図し、昭和五四年一月から五八年一二月までの五年間に全国各地の一一の労災病院において労災保険によって療養しているじん肺患者三三三五例を登録し、コホート調査の手法に従って前向きの疫学追跡調査を実施し、その結果を発表した。それによれば、「調査期間中に死亡した六三六例中肺がんによる死亡が八七例(13.7%)で最も多く、右肺がん死亡例のうちの観察死亡者数(0)は七四例で、これはわが国の一般男子人口における死亡率から計算すると期待死亡数(E=18.20)に比較して4.1倍(O/E比=標準化死亡比)の高値を示し、肺がん死亡の超過危険を示唆した。これに対し、胃がん及び胃がん肺がんを除く悪性腫瘍の標準化死亡比は、それぞれ1.2倍で、ほぼ一般男子人口の死亡率と同じ水準を示して、調査対象が悪性腫瘍に関して特定の偏りをもつ集団でないことを示した。喫煙習慣は標準化死亡比を相加的に高める傾向がみられたが、喫煙群の5.2に対して非喫煙群においても4.2を示しており、調査集団の高い標準化死亡比の主因が喫煙習慣に依存するものではないことを窺うことができる。合併肺がん八七例の病理組織型は、類表皮がんが五〇例(57.5%)で最も多く、小細胞がんが一九例(21.8%)、大細胞がんが八例(9.2%)であり、一般男子人口における肺がんの組織型に比較してわずかに類表皮がんが優勢の傾向を示したが、顕著な差異ではなかった。粉じん作業期間の長さ及び胸部X線写真のじん肺進展度から推定される粉じん曝露量と肺がん合併頻度との間に量・反応関係を示さなかった。また、珪酸粉じんそのものの発がん性を否定する見解を支持する結果が得られた。」としている。

5  また、海老原勇(甲三一、平成元年)は、昭和三五年から六一年までに労働科学研究所や外部の研究所、病院で剖検されたけい肺症と炭坑夫じん肺に合併する肺がん四八例につき、病理学的に検討を加えた結果、肺がんの組織型は扁平上皮がんが最も多く、ついで小細胞がん、腺がんであった。原発部位は軽度のじん肺では右肺、上葉中心部に多く、中等度、高度のじん肺では、左右差、上葉、下葉の差はなく、末梢部に目立った、末梢部位はS2、S6、S3の後方、S9など塊状巣の好発部位と一致していた、とし、その結果、慢性気管支炎、肺内の粉じん巣や塊状巣、あるいは広汎な間質性肺炎など、じん肺における組織変化が肺がん発生の母地となっている可能性が示唆された、と報告した。

6  千代谷、斎藤芳晃(甲四一、平成三年)は「昭和五八年から六三年までに珪肺労災病院において療養した四五歳から八九歳の症例のうち、X線写真に大陰影も併発肺疾患もしくはその遺残陰影も有しないものを選び出し、1型群、2型群および3型群に分けてそれぞれの群の肺がん死のリスクを検討した結果、各群のO/E比はほぼ同一の水準にあり、量・反応関係を示さなかった。」と報告した。

7  森永謙二ら(甲四〇、平成三年)は、昭和四七年から五二年までの六年間に、大阪府下で管理四もしくは合併症による要療養と認定された石綿肺を除くじん肺男子患者二四八人を対象に昭和六二年一二月末まで観察し、調査した結果を発表した。それによれば「観察期間内に死亡したのは七六名で、認定後三年以内に死亡した二一人を除く二二六人の標準化死亡比は全結核9.79、肺がん3.70、呼吸器疾患4.11で有意の過剰死亡を認めた。全対象者のうち肺がん死亡者は一五人で、その病理組織型は、不明二人を除く一三人中、扁平上皮がんが最も多く八例、ついで小細胞がん及び腺がんの各二例、未分化がん一例であった、肺がんの死亡者中一一人は喫煙歴を有していたが、肺がんの過剰死亡は喫煙以外の因子の関与も疑われた。」と報告した。

8  横山哲朗(乙三四、平成三年、以下「横山研究」という)は「(一)日本及び外国の文献を調査した結論としては、じん肺に肺がんが異常に高率に合併する事実の存否についてすら一般的な結論は未だ確立したとはいい難い、またじん肺・肺がんが合併する傾向が存在するとしても、両疾患の発症に共通する要因が存在して、じん肺が肺がんの原因となったとは簡単には断定できない、もし、原因・結果の特異的関係があるとすれば、じん肺・肺がん合併の機序並びにそれに関与する要因の種類・関与の度合についても、さらに今後の検討に待たねばならないのが現在の知見の総括である。」「内外の研究者が報告したO/E比を通覧するに、著しい高値を報告していた論文と2.0以下の比較的底値を報告していた論文があった。一般に、後者は、限定された基準対照群を選び、その中からじん肺・肺がん合併対象集団を年令、性別、喫煙歴などにつき厳密に対応した対照症例を選び出した研究であり、前者は、基準対照集団に国単位の人口動態などから算出した肺がん死亡率を採用した研究に多い。O/E比がじん肺・肺がん合併の指標として統計学的に意味をもつためには、O/E比算出の分子と分母とが相互に対応するものでなければならない。分子は観察したじん肺・肺がん合併症例数であり、分母は基準対照症例群の肺がん死亡率と観察じん肺症例数の積である。」(二)「剖検輯報(昭和四八年から六三年まで)に登載された剖検例についてみると、じん肺症例に肺がんを合併する頻度は、非じん肺症例に肺がんを合併するものと比べた限りにおいて1.63±0.16倍であった、この値はじん肺症例(粉じん作業労働者)にヘビー・スモーカーが多いことから、喫煙の影響としてでも説明できる値であり、これをもって直ちに、じん肺が肺がんの直接原因となったという根拠とはなりえない、肺がんの組織型・肺がん発生部位の分布には非じん肺症例とじん肺症例の肺がんにおいて著しい差異を認めなかった、じん肺症例に見られた肺がんの組織型あるいは発生部位から、その肺がんがじん肺を基盤に発生したことを証明することはできなかった。」「剖検輯報には、個々のじん肺症例について、吸入粉じんの種類、粉じん作業歴、胸部X線所見、じん肺病型、喫煙歴などの情報が記載されていない、これに登載されている医療機関は限定されており、登載された剖検症例数も全国死亡数のほぼ二〇分の一をカバーしているに過ぎない、これに登載される症例の医療機関は物的、人的条件を必要とされていて、その選択はアトランダムではない、これらの医療機関に死亡まで入院し、治療を受けられる患者という観点からも“偏り”があることは否定できない。この偏りを認めた上で統計処理を行うにあたっては厚生省人口動態調査による統計を基準対照群に選ぶことには問題があり、剖検輯報登載の非じん肺症例の肺がん死亡百分比を選ぶことが妥当である。北海道岩見沢労災病院では北海道のじん肺症例の剖検を九七%実施しているので北海道におけるじん肺死亡症例の全体を把握しているというが、剖検輯報には北海道の他の医療施設におけるじん肺症例の剖検が多数報告され、岩見沢労災病院における剖検は北海道におけるじん肺症例剖検の四〇〜五〇%に過ぎない。したがって岩見沢労災病院におけるじん肺症例の剖検をもって北海道におけるじん肺剖検を代表させることは出来ない。」「わが国におけるコホート研究においては共通の手法として基準対照群の肺がん死亡率として人口動態調査の成績を引用しているが、妥当ではない。このことは人口動態調査(昭和六三年)で記載されている肺がん死亡率(0.0568)と剖検輯報登載症例の内非じん肺症例の肺がん死亡百分比(0.116)との間に大きな相違が存在することからも理解できる。」とし、専門家会議報告書や千代谷プロジェクト研究の疫学調査の手法を批判している。

9  和田攻ら(乙四六、平成四年)は、けい肺患者ないしシリカ粉じん暴露者の肺がんSMR(標準化死亡比)は、正しい比較対照がなされた各国からの報告では1.1〜2.0(仮の単純平均1.43)前後とする例が多い。少数ではあるが、肺がん過剰死を全く認めぬSMR=一ないし一以下と報告する例もある。けい肺剖検例を対象とした調査において、対照集団として一般人口(全国、地域動態統計)を用いることは、その比較対照性に疑問がある。けい肺症が肺がん発生リスクをある程度高くする傾向は認められるが、特に暴露量や重症度と肺がんSMRとの関連が一定せず、確実な因果関係は未だ不明というべきである。けい肺が肺がん発生を促進するのか、あるいは、粉じん暴露がけい肺と同時に肺がんの直接原因となるのかは結論されていない。現段階では、ある固有の肺がんSMR値を求めることはできない。他の発がん因子―喫煙、ラドン系核への暴露、PAH(発がん性多環芳香族炭化水素)の共存など―が疫学調査を困難にする交絡因子として指摘されていると述べて、専門家会議報告書や千代谷プロジェクト研究の疫学調査の方法を批判し、「比較対照すべきは、標準化後の全国剖検例であろう。そうであれば、じん肺剖検例の肺がんSMRは16.8/10.9=1.5となり、諸外国の調査事例と同じレベルのリスクを示すことになろう」とする(因みに専門家会議報告書では、三五歳以上男子の標準化後の全死亡に対する肺がん死亡割合は、全国じん肺剖検例(昭和三三年〜四九年)で16.8%、全国剖検例(昭和四二年〜四六年)で10.9%、全国死亡例(昭和四二年〜四六年)で2.2%と提示されている)。

10  富永祐民(乙五一の一、二、平成五年)は剖検輯報の資料価値について、和田と同じく、個々の症例についての情報不足、登載剖検例の全国死亡数に対する割合の低さを、また千代谷プロジェクト研究につき、喫煙の影響やアテンションバイアスの補正の必要を指摘し、後記山本真の疫学的解析方法を批判している。

11  山本真(甲四四、四九、当審証言、平成四年)は、横山研究の疫学的検討の方法を批判し、「横山により提出された剖検輯報からの調査に基づくじん肺における肺がんリスク1.63倍という値は、正しく検討を行えば約四倍という数値となり、これは近年のわが国において複数観察された発生率(死亡率)における四倍という数値と何ら矛盾しないものであり、むしろそれを支える数値であることを実証できた、わが国におけるじん肺患者の肺がんリスクは、現時点では約四倍というのが妥当な数値といえ、これは喫煙の影響と考えられる上限値の二倍を上回り、現時点での国際的知見とあわせその医学的機序の詳細は不明ながら、じん肺自体の組織変化が肺がんリスクを上昇せしめていると判断せざるをえない。」としている。

12  しかして、横山研究、山本真の意見、更に千代谷プロジェクト研究をめぐって、山本真(甲五一、五五、五七、五八の二)、山本英二(甲五二、五四、五六)、東敏昭(乙四八、六一)、富永祐民(乙五一の一、二)、小野正一(乙五二、六二)等の間に疫学的解析における対照群の選択や方法の正当性について論争がくりひろげられている。

13(一)  千代谷、大崎饒ら大学、病院、研究所等に勤務する研究者、医師等一六名を構成員とする「じん肺り患者の病後の経過に関する調査研究委員会」(乙七五、平成五年)は、第五五回じん肺審議会において「じん肺にり患していた者の死因について、可能な範囲において医学的疫学的調査を行うよう検討すること」という旨の議決がなされたことをうけて、設置され、平成二年度から三年計画で調査研究を実施し、その結果を報告書にまとめた。その概要は次のとおりである。

(二)  概要

(1) 全国三六の労災病院に対し、平成三年二月現在労災保険で入院または通院治療を受けていたじん肺患者及び昭和六三年二月以降に死亡したじん肺患者のじん肺、合併症、死因等に関する質問票を郵送し、回答を求めた。解析の中心は、粉じん暴露と肺がん発生の関係とした。解析の対象数は、入院患者二七一、外来患者一、八二二、死亡患者三四一、合計二四三四。対象者の肺がん有病数は入院患者一〇、外来患者二二、死亡患者の肺がん死亡数一五であった。調査の結果は、入院、外来、死亡の各患者において、PR区分と肺がん有病との間に統計学的有意な関係は認めなかった。じん肺患者死亡者における肺がん死亡の割合は日本人死亡者におけるそれと異なるとはいえなかった。以上により、今回の調査では男性じん肺患者に肺がんが多発していることを示唆する所見はみられなかった。

(2)(ア) 労災保険傷病年金受給者台帳上に登録され、昭和六二年一月一日から平成元年一二月三一日までの三年間に同年金を受給したすべての男子じん肺患者一七、四七一名を対象として、調査した結果、肺がんの標準化死亡比(SMR・対象集団の観察期間内人年数と同期間の日本人男子死因別死亡率との積を期待死亡数とし、これに対する観察死亡数の比)は2.14となり、じん肺傷病者年金受給者の肺がん死亡率が一般集団にくらべて高いことは確実であると思われる。しかし、調査対象者の職歴、暴露物質など肺がんリスク要因に関する情報は得られておらず、またじん肺および合併症の病歴、病状など肺がん発症とのかかわりを検討すべき項目についても情報が得られていない。調査対象集団の肺がん超過危険に関与した要因が何であるのかは明らかでない。

(イ) 四四都道府県労働基準局で管理する健康管理手帳台帳上に死亡の記載ある男子五二八(死亡期間昭和四八年から平成三年の一九年間)を対象として調査した結果、健康管理手帳所持者全体、すなわち母集団に関する情報を入手できないため、相対死亡比(PMR)による解析を行ったところ、これは1.60、基準死亡比率の分母として悪性新生物死亡総数を用いた場合は1.96となり、右じん肺患者集団においても肺がん死亡率が増加している可能性が高いことが知られた。本委員会が実施した調査解析を通していえることは、じん肺と肺がんの間になんらかの因果関係があるとしても、その強さという点からみれば、比較的弱い関係にとどまるであろうということである。このために、調査対象の選択や解析方法の相異によっては、肯定的な結論が得られたり、得られなかったりするのであろうし、後述の文献調査においても、国外の研究が指向するすう勢をなお見定めがたいのも、両者の関係の弱さに起因するものであろう。

(3) じん肺り患者の病後の経過に関する疫学、病理学、臨床医学的国内文献、じん肺と合併症に関する外国文献を収集し解析した。コホート調査については、国外における少数の例外を除き、じん肺に合併した肺がんのリスクは、一般集団における肺がん死亡のリスクに比較して有意に高いと結論する報告が多かった。症例対照調査については、わが国では評価の対象にすべき報告が行われておらず、得られた国外文献の数も少数に限られた。そのうち、有意差を認める報告はイタリアから二題あるが、むしろ有意差を認めないという見解が支配的であると考えた。従事した粉じん作業、胸部X線写真のじん肺病型との関係は報告者によって異なり、一定の傾向を把握しがたかった。喫煙習慣がSMRを高める方向に影響するとの報告は多いが、同時に非喫煙のじん肺患者でもSMRが上昇することが指摘されている。

14  右調査結果報告に対しては、山本真(甲五九)、山本英二(甲六〇)から、(1)、(2)の解析方法についての批判があり、(2)(ア)について肺がんで死亡する前にじん肺で死亡したと考えられ、したがって肺がんが死因とされなかった肺がん患者の存在、すなわち競合危険の問題を考慮すると、SMRは2.62となり、(2)(イ)についてオッズ比を求めると2.48となり、報告書の結論は、むしろ、じん肺症と肺がん死との関連性を肯定的に示しているというべきである、としている。

四 じん肺と肺がんの関係についての国際的知見

1(一)  千代谷は、昭和五八年一月二四日付意見書(乙五八)において、「じん肺と肺がんの因果関係については、専門家会議報告書以後も国際的にコンセンサスを得られるような新たな知見を欠いているが、一九八三年(昭和五八年)にILOが西独で開催を企画している第六回国際じん肺会議において、はじめて「じん肺に関連する肺がん」がラウンドテーブルディスカッションのテーマに採用された事実から、国際的にもこの問題の研究の現状が専門家会議報告書に記載されたレベルを大きく超えていないことが知られているし、一部に行われている因果関係ありとする主張も、なお国際的にコンセンサスを得られるほどのものでないことを重視すべきである。」と述べ、また、昭和五九年三月三〇日付意見書(甲三七)では、右会議に出席した感想として、「国際的に関心が深まってきたとはいえ、じん肺と肺がんの関連性について、肯定的にせよ否定的にせよ一致した見解に到達するためには、まだかなり長い調査研究の積み重ねが必要であると理解された。」と述べている。

(二)  一方、同じく右会議に出席した海老原(甲二三)は、その討議内容を次のように記述している「アメリカからの炭坑夫に対する疫学調査の結果からは肺がんのリスクを認められないとの二件の報告があった以外は、いずれも肺がんのリスクが高いとの報告・討議がなされた。すなわち、一般演題として提出された七題のうち、デンマークからの報告では鋳物工について追跡調査をしたところ肺がんと泌尿器がんが有意に高率であったとされ、フィンランド、スウェーデン及び日本(千代谷慶三の報告)からの各報告では、けい肺症についての観察ではいずれも肺がんのリスクが高いとされ、海老原勇は低濃度けい酸じんの暴露を受けたじん肺患者に対する死亡疫学調査の結果肺がんのリスクが高いという報告をした。また、西ドイツのヴォイトビッツは、ラウンドテーブルディスカッション「けい肺、炭坑夫じん肺と肺がん」において、今日まで報告されている内外の多数の研究成果をレビューし、炭坑夫じん肺やけい肺では肺がんの発生率が高率であるとしたうえで考えられる三つの仮説(① けい酸じんが直接に肺がんを発生させる、② けい酸じん暴露によって生じた肺内の組織変化が肺がん発生の母地となる、③ 粉じんと同時に吸入した発がん性芳香族炭化水素が発がんの要因となる。)をあげる冒頭の基調報告を行い、右三つの仮説について討議したが、実験的な結果や疫学的な結果からけい酸じんそれ自体が発がん性をもっていないとの考え方が多数であり、粉じん吸入と慢性気管支炎あるいは粉じん巣が肺がんの発生母地となるだろうとの考えが強く打ち出された、促進要因としての喫煙問題が出されるなどしたものの、右発生母地の考え方やけい肺に肺がんの発生率が高率であるとの見解に反対する立場からの討議はなされなかった。」(もっとも、海老原の別の報告書(甲二四)には「②の点については、瘢痕がんについて論議され、あるいは珪肺等のじん肺に発生する慢性気管支炎と肺がんの問題が論議されたが、今日のところ決定的ではないとの考えが主流を占めた。」と記載されている。)

(三)  千代谷(乙五九)は、海老原の右報告に関し、次のように述べている。すなわち、「海老原医師は、反対の立場からの討議が起こらなかったことを挙げて、ヴォイトビッツの司会者として討議を誘発するために指摘したじん肺と肺がんが高率である可能性については、参加者によって容認されたかのごとく述べているが、国際じん肺会議会長のウルマー教授は、喫煙が原因であろうという疑問を提起したし、今回、信頼するに足りる新しい疫学的調査成績をもっているのは、同会議にリスクが高くないと報告したアメリカのNIOSHの成績に限られるもので、したがって、他に反対討論が出されなかったのに過ぎないのである。」

2  J・Cマクドナルドは第七回国際じん肺会議(一九八八年=昭和六三年、アメリカ、ピッツバーグで開催)で発表した「シリカ、けい肺及び肺がん」と題する論説(乙三六の一、二)において、二〇以上の職業コホート調査及び患者照合研究を中心に検討した結果を、次のように論述している。「原因と影響という点における証拠を評価する場合、一貫性、強度、特異性、時間関係、量・反応、及び生物学的整合性という古典的な基準を考慮するのが有益である。シリカの発がん性を証明するに足る真に充分な証拠が実験動物で認められた場合、最後に挙げた基準が満たされることになる。しかし、おそらく時間関係を例外として、その他はいずれもまだ満たされていない。疫学的所見は一貫性に欠け、リスク推定値は一般に低く、暴露反応は調査されず、更に、タバコ等他の発がん性物質による交絡の可能性が多い。一般母集団での死亡率を補償を受けたけい肺患者の死亡率との比較に使用することもまた、疑問視されなければならない。公平を期するために付け加えると、多数の個別症例、比例死亡率調査及びがん登録診断に基づく疫学的調査に関する報告書は多数あり、これらは、全般的にいってシリカあるいはけい肺と肺がんとの間に関連があるとしている。しかしながら、こうした調査は説得力が弱く、関係を否定する結果がでた場合よりも肯定する結果がでた場合に公表されることが多いように思われる。実際、結晶状シリカのヒトに対する発がん性の証拠は限られている。信頼はできるが、偶然、偏り、あるいは交絡など、他の説明の可能性もはっきりとは排除されていない。この仮説の信頼性は、それ自体解釈が難しい少数の動物実験に大きく依存している。もっと、多くの、そして、もっと確実な証拠がない限り、結晶状シリカへの暴露がヒトにおいて肺がんをひきおこすという結論を出すのは早計であろう。」

3  L・シモナートとR・サラッチは「シリカ・ダストへの暴露と肺がんの関係に関する疫学的様相」(甲四五の一、二―一九九〇年―平成二年)において「シリカ・ダストに潜在的に発がん作用があるかどうかについて、三つの主要な発見が現在の認識の基本となっている。(1)シリカは実験による仮説では発がん物質である。(2)肺がんになる危険性はシリカに暴露した労働者の中に増大し、既知の発がん物質に暴露した労働者だけに限られるわけではない。(3)別々に調査してみると、調査対象者のうち珪肺が進んだ暴露労働者に肺がんになる危険性が集中している。この事態を二つの仮説で説明してみよう。(a)シリカに暴露することが直接珪肺と肺がんの原因になり、珪肺患者の中に肺がんになる高い危険性が集中しているのは明らかに暴露量が多い結果である。この説明は、二つの病理学的過程がまったく一致していることを当然のこととして含み、そういうことはむしろ例外的な状態であろう。(b)シリカに暴露したことは、珪肺の進展に伴って肺がんになる危険性が増える間接的な原因であり、珪肺はシリカを含もうが、除外しようが、他の発がん物質に暴露した影響が大となる病理学的状態である。この仮説によれば、珪肺の病理学的状態は発がん過程を助長する影響をもつ。」と述べている。

4  ILO第八回国際会議は名称を「国際職業性肺疾患会議」と変更して一九九二年(平成四年)九月一四日から一七日までチェコスロバキアのプラハで開催された。この会議に出席した労働福祉事業団、岩見沢労災病院大崎院長(乙五四、平成五年)は「通常のじん肺の肺がん合併はオランダの炭鉱夫じん肺の肺がん合併は期待値よりも低く、またじん肺の程度が進行するにつれて発生率は低くなったという。これは、肺がんの発生する以前に肺線維性変化により死亡するためであろうという。逆に肺がん合併の多い(標準化死亡比が高い)という報告もあり、じん肺に肺がん合併が多いのか、あるいは粉じん非暴露者の肺がん発生と変わりないのかの結論はいまだ出ていない。じん肺における肺がん発生について今後も追求しなければならないことは、遊離けい酸の発がん性の有無の基礎的研究や他の危険因子、例えば喫煙の影響の関与などを今後も症例を集積し解析する必要があろう。」と報告した。

また、同じく第八回会議に出席した大阪府成人病センター調査部主幹森永の報告(乙五五、平成五年)によれば、「肺がんについては、鉄鋼労働者を対象とした疫学調査がスペインから報告されたが、今回の成績では肺がんのリスクは認められていない。」としている。

5  この間にあって、A・G・ヘプレストン(乙四三の一、二―一九八四年)は、文献調査により、シリカの発がん性、じん肺症と肺がんとの因果関係につき否定的な見解を発表し、喫煙その他の環境要因を考慮すべきことを説き、ヘッセルら(乙三八の一、二―一九八六年)は、南アメリカ金鉱山の白人鉱夫についての症例―対照調査で、また、ヤン・M・M・メイヤースら(乙三七の一、二―一九八九年)はオランダの精巧陶磁器製造業及び石炭採掘業に従事する人々についての症例―対照調査で、けい肺ないし粉じん暴露作業への就労歴と肺がんとの間の関連性を否定する結論を出し、クレール・アンファン・リヴァードら(甲四七の一、二―一九八九年)はカナダ、ケベック州の珪肺のため補償を受けた人々の肺がん死の高い危険性を示し、S・ラゴリオら(甲四六の一、二―一九九〇年)はイタリア北ラティオ郡の或る町の製陶作業者につき症例―対照調査をして、その肺がんの危険がけい酸に暴露されない他の職種の作業者より高いことを見出した、としている。

6  他にも、じん肺と肺がんとの関連について肯定的な或いは否定的な調査・研究報告が多数存在するものの、その動向の帰一するところがないことが横山(乙三四)、和田ら(乙四六)、千代谷、大崎らの調査委員会(乙七五)の各研究によって窺うことができる。

以上の海外の論議をみると、じん肺と肺がんの因果関係については、現在なお、従前に比べて特段に明確になっているとはいえない状況にあると考えられる。

五 けい酸ないしけい酸塩(二酸化けい素・シリカ)の発がん性についての知見

1  国際がん研究機関(IARC)は化学物質のヒトへの発がん性リスクの評価作業をしているが、これは世界各国の各分野の専門家で構成されるワーキンググループが、発がん性物質に関するばく露(疫学)データ、動物実験データその他裏付けとなるデータを審査、評価、分類し、その結果をモノグラフの形でまとめたものである。これらの評価、分類は、化学物質が発がん性をもつとの証拠の強さを示しているのであって、物質の発がん性の強さではない。一九八七年(昭和六二年)発刊の第四二巻において「シリカ及び数種のけい酸塩」に関し「ヒトにおける結晶性シリカの発がん性の証拠は限定されている」「ヒトにおける非結晶性シリカの発がん性についての証拠は十分でない」と評価した。前者は「化学物質へのばく露とヒトがんとの間に正相関が認められ、因果関係の解釈が信用できるものであるが、偶然、かたよりと混同を十分に信頼性をもって除外することができなかった。」ことを意味する。なお、上位評価は「十分な証拠がある」である。そして、総合評価において、結晶性シリカについてグループ2Aの「多分ヒトに発がん性がある」に分類された(グループ1は「発がん性がある」、グループ2Bは「おそらく発がん性がある」、グループ3は「発がん性は評価できない」、グループ4は「多分発がん性はない」である。乙三五の一、二、五〇、六八)。

2  米国NTP(国家毒性プログラム)は発がん性物質をグループa(発がん性物質であることが知られている)とグループb(合理的に発がん性物質であることが知られている。ヒトでの調査から、因果的な解釈は信用できるか、偶然、かたより、または混同などを適切に除外できないことを示す、発がん性の限定された証拠がある。動物実験での発がん性の十分な証拠がある)に分類し、結晶性シリカを後者に該当するものとしている(乙五〇、六八)。

3  日本産業衛生学会は、発がん性物質について、許容濃度等委員会において検討し、許容濃度の勧告、発がん性物質表の提示等を行っているが、発がん性物質を基本的にはIARCの分類に基づき、第1群(人間に対して発がん性がある物質)と第2群(人間に対しておそらく発がん性があると考えられる物質)A(証拠がより十分な物質)、B(証拠が比較的に十分でない物質)に分類し、二酸化珪素(結晶性)を第2群Aに該当するものとしている(乙五〇、六八)。

4  その他世界各国政府、国際機関等で、化学物質の発がん性に関する資料を収集、調査、評価し、発がん性物質の分類等を行っている主なものはILO(国際労働機関)、EC(欧州共同体)理事会指令「危険な物質の分類、包装、表示に関する法律、規則、行政規定の近似化に関する指令六七/五四八/EEC」米国EPA(環境保護庁)、ACGIH(米国産業衛生専門家会議)、米国カリフォルニア州一九八六年安全飲料水及び有害物質施行法、ドイツDFG(研究審議会)等であるが、これらの機関は、シリカの発がん性について言及していない(乙五〇)。

5  菊地(甲一四のⅥ)は、けい酸は狭い意味の発がん物質とはいえないとし、藤澤(甲一六の三)は、けい酸の直接作用による発がんの可能性は低いとし、専門家会議報告書(乙一四)はけい酸またはけい酸塩粉じんの発がん性を積極的に肯定する見解は得られなかったとし、千代谷プロジェクト研究(甲二七)はその調査の結果はけい酸粉じんが明らかな発がん性をもたないという支配的見解を支持するものと考えられたとしている。

以上によれば、けい酸ないしけい酸塩自体の発がん性があることは国内外で医学上未だ確定されていず、むしろ消極説が現段階の支配的見解と考えられる。

六 じん肺と肺がん発生の病理学的説明

1  じん肺と肺がんの因果関係を肯定的にみる考え方はおおよそ次のとおりである。

(一) 佐野(甲一一、一二、三三)は、「じん肺に合併する肺がんの増加は、粉じん巣の線維化の進行には直接の関係はなく、気管支炎と細気管支炎の発生と進行に密接に関係し、炎症による変性と再生の繰り返しの結果であろう。」とし、また、「多様な刺戟もそれが細胞に働いたときは、細胞が壊死するか、増殖するか、自律的な増殖(がん化)を起こすかの三つの方向にしか向かわず、がん化は特殊な物質に対して特殊に起こる生体反応ではなく、刺戟に対する細胞反応の一連の現象である。人体でのがん原物質による発がんには、その物質の量、作用期間以外に、組織細胞の新陳代謝の旺盛な組織ほど発がんは起こりやすく、この観点から各臓器における慢性炎症の存在は重要である。」「人間の細胞は、異常な物質代謝を行うと、その結果として細胞の核内にある遺伝子が変異を起こして自律的に増殖し、増殖するだけの部位を作るが、それががんである。」とする。

(二) 菊地、奥田(甲一四のⅥ、一五の三)は、前記専門家会議報告書の記述のほか「じん肺症一般の気道上皮の変化からは、じん肺に伴う慢性炎症に基づく細気管支粘膜上皮―肺胞上皮の増殖性病変が示唆的であり、とくに吸入物質の沈着の場としての瘢痕の存在を考慮する必要がある。けい酸は発がん物質の範囲に入らないが、肺組織を破壊し、瘢痕化することによって同時に吸入された他の発がん物質を局所に停滞させる可能性がある。」とする。

(三) 海老原(甲一九、二〇、二一の二、二二)は、「じん肺にみられる慢性炎症である慢性気管支炎に伴う、気管支上皮の基底細胞増殖、扁平上皮化生から異型増殖の発生、細気管支炎による異常な環境化と異常代謝等の病理組織学的変化そのものが発がんの好適な母地となり、このような状況に発がん物質が作用することにより、がんへの『ひきがね』が引かれる。」「がんに対する生体の防禦機構は細胞性免疫を主役にしながら体液性免疫も協同的にあるいは独自に作用しているが、じん肺症や粉じん作業者における細胞性免疫機能の低下と体液性免疫機能の亢進という免疫異常それ自体がリンパ系の悪性腫瘍の発生要因となっており、加えてマクロファージの破壊とインターフェロン産性能の低下によるウィルスに対する防御機構の低下が促進要因となっている。」「粉じん作業者は職業的にがん細胞に対する免疫機能を低下させる物質を吸入していることになる。」としている。

(四) 藤原(甲一六の三、二八)は、前記専門家会議報告書の記述のほか、「けい肺症と肺がんの合併はけい酸自体の直接的発がん性よりはけい肺症に伴なう慢性気管支炎及び非特異的肺線維化に対する気管支、肺胞上皮の再生性増殖に起因すると考えるべきであろう。」「じん肺ではがんの発生母地となるような上皮の増殖性変化が強いられている。」という。

(五) 山本真(原審証言)は、肺領域におけるがんのうち、結核性空洞壁などの大きな瘢痕から発生する瘢痕がんの発生機序について、「瘢痕は既存の組織とは異なる死んだ組織であるが、そのようなものが肺内に存在した場合、その周囲に治癒機転として瘢痕を覆うような上皮の増殖が起こり、その際異型細胞が出現するなど正常の細胞からの逸脱が生じてがんが発生する。これは瘢痕それ自体からがんが発生するということではなく、瘢痕が存在することにより上皮の増殖が起こり、それががん発生の原因となるということである。」という。

2  以上はいずれも粉じん暴露による肺内の組織的変化が肺がん発生に何らかの役割を果しているとするものといえるが、シモナートらが示した仮説に含まれる。

七 相対危険度の数値的意味

じん肺に肺がんが合併する相対危険度を数値的にみると、前記のとおり、専門家会議報告書の六倍、千代谷プロジェクト研究の四倍(山本真意見書はこれを肯定する。)、横山研究の1.63±0.16倍等である。

千代谷(甲三六)は、既知の職業がん(労基法施行規則別表第一の二第七号所定の肺がん等がこれに該当する。)の相対危険度に関し、「職業がんでこれが原因でこのがんが起きているといわれているものはほとんど一〇倍から一五倍ぐらいのリスクを上げられている。専門家会議報告書の六倍は、既知の職業がんと原因物質との関係と同じレベルではとても考えられないような低さである。けい肺と肺がんの因果関係を肯定するためには、何倍の数値を要するかということは難しいところではあるが、既知の職業がんの例からすると一〇倍位あってくれるといい。」旨述べている。これによると、じん肺に肺がんが合併する相対危険度に関する前記数値はいずれもこれを下回っていることが明らかである。

専門家会議報告書が、それまでに入手できる国の内外の文献を収集して綿密に評価し、当時におけるもっとも妥当な理解に近ずこうとし、かつ、その分析の結果として、相対危険度六倍としながら、なおかつ、石綿肺を除くじん肺と合併肺がんの関連について、直接的な因果関係を主張するに足る知見は、国の内外を問わず得られておらず、むしろ、因果関係の存在を否定する見解が支配的であることを述べているのは、調査対象の偏りに対する配慮の他、右相対危険度六倍と既知の職業がんの相対危険度のレベルとの対比があったものと思料される。

八 喫煙と肺がん

1  過去の多くの疫学的研究により喫煙本数と肺がん死亡率の間に量・反応関係があることが明らかにされており、実験的研究により、煙草に含まれている発がん物質の解明が進んでいる。

文献の多くが、けい肺患者・シリカ粉じん暴露作業者の喫煙率は、比較対照される一般人口男性にくらべて高いこと、死亡率を比較する際に、喫煙の影響を考慮すると、肺がんのSMRは低下することを指摘している。(乙四六)もっとも個体差があることも認められる。(乙二四、二五)

2  喫煙と肺がん発生との間の関連性を否定する見解は殆どみられないが、次のような報告もある。

千代谷プロジェクト研究(甲二七)は「喫煙習慣は肺がん患者の標準化死亡比を相加的に高める傾向がみられたが、非喫煙群においても4.2を示しており、調査集団の高い標準化死亡比(4.1)の主因が喫煙習慣に依存するものではないことを窺うことができる。」と報告していたが、その後この報告は、千代谷ら(乙四一の一、二、六〇)により同一資料について、方法を変えて再分析され、その分析結果によると、「肺がんのO/E比は4.80で有意に高い、喫煙者群の肺がん死亡率は前喫煙者で5.00倍、現喫煙者で5.41倍なのに対し、非喫煙者の肺がん死亡率は2.22倍となっており、肺がんによる死亡の増加には喫煙が大きく関与しているのかも知れない、しかしこれだけでは高い肺がん死亡率を完全に説明され得ない。」としている。

森永ら(甲四〇)は、そのコホート研究で、「けい肺患者には喫煙と関連の深い肺がんの過剰死亡が観察されたが、その相対危険度は3.7と大きく、喫煙以外の因子の関与も疑われた。」としている。

3  肺がんの危険因子としては、職業性因子、煙草のほか、大気汚染、遺伝的因子、免疫など種々の因子があげられており、けい肺患者の肺がん死亡率を求める際には、これらの影響を適正に評価し、考慮する必要があるが、困難な問題である。和田ら(乙四六)は横山の得たSMR1.63の数値について「この場合も、地域や喫煙、地下作業、他の発がん物質等の交絡因子の介在を考慮していないので、信頼性のある数値とはいい難い。理想的にはシリカ粉じん暴露という因子以外の条件が全く同等な同性同年令集団での剖検例を対照とすべきであるが、職種の違いは、必然的に固有の特性をもたらす。疫学調査士の避け難い制約、限界である。」としている。

九 被控訴人の主張について

1  被控訴人は、じん肺と肺がんとの間には一般因果関係が認められるから、政男のじん肺と肺がんの間に相当因果関係が推定される旨主張するので、以上の検討結果を総合して判断する。

訴訟上の因果関係の立証は、一点の疑義も許されない自然科学的証明ではなく、経験則に照らして全証拠を総合検討し、特定の事実が特定の結果発生を招来した関係を是認しうる高度の蓋然性を証明することであり、その判定は、通常人が疑いを差し挾まない程度に真実性の確信を持ちうるものであることを要し、かつ、それで足りるものである(最高裁判所昭和四八年(オ)第五一七号、昭和五〇年一〇月二四日第二小法廷判決・民集第二九巻第九号一四一七頁)。すなわち、訴訟における事実的因果関係の認定については科学的確証までは必要でないものの、そのことは一点の疑義もない自然科学的な証明までは必要とされないという意味にとどまるのであって、このような科学的立証ができずに高度の蓋然性の範囲内で心証を形成していく場合であっても、現時点における科学的認識と共通の基盤に立つことが必須の前提となるものであり、科学的認識と乖離して心証を形成することが許されるものでないことは多言を要しないところである。すなわち、右判例は、訴訟上の因果関係の立証は、純粋な自然科学的立証とは異なる側面があるということを示しているにすぎず、医学等の自然科学を無視したり、これと全く異なる観点からの認定を是認するものではなく、自然科学の成果を経験則として十分取り入れ、それに基づき必要とする資料を十分収集した上で、因果関係の有無を判断すべきことを明らかにしたものと解される。じん肺と肺がんとの間の因果関係の有無の判断においては、疫学や臨床医学の知見が、経験則として重要な地位を占めることは明らかである。したがって、じん肺と肺がんとの間の因果関係の有無は、疫学的知見、実験的知見、肺疾患に関する内科学、病理学等の現時点における到達点を十分に取り入れた上で判断されるべきである。

前記認定事実によれば、じん肺と肺がんの合併頻度に関する調査研究報告は増えているが、じん肺(けい肺)の原因物質であるけい酸にヒトに対する発がん性があることは医学上未だ確定されていず、むしろ消極説が現段階の支配的見解と考えられ、またじん肺患者に肺がんが発生する仕組みについては、前記のような幾つかの見解が主張されているものの、これらはいずれも現時点においては証明の対象たる仮説に過ぎないのであっていずれも未だ医学上の定説となるには至っていないことが認められる。専門家会議報告書もじん肺合併肺がんの組織像や発生部位について特異性は認め難く、じん肺の進展度との明らかな量・反応関係も認められないので、そのことから直ちに因果関係の有無を評価できないこと、発生母地説も根拠が十分でないことを指摘していたし、その後の医学的研究の成果によっても、状況に大きな変化はみられないというべきである。けい肺と肺がんとの間に何らかの関連性があることは強く示唆されるが、一方肺がん発生リスクは既知の職業がんの場合におけるリスクに匹敵するほど高いものではなく、これと同一のレベルで論ずることはできないとされている。また、外因性の肺がんには、職業的有害因子のがん原性因子暴露に起因するもののほかに喫煙のように非職業的有害因子に因るものも含まれるので、その影響を適正に評価する必要がある。このため、調査対象の選択や解析方法の相違によっては、肯定的な結論が得られたり、得られなかったりするのであろうし、研究者の間で調査対象の選択や解析方法の正当性をめぐって際限のない議論が繰り返されており、いずれが正当であると判断できるような状況にはないものといえる。

そして、以上の検討の結果を総合すると、現時点においては、じん肺と肺がんとの間に、病理学的因果関係はもとより、疫学的因果関係の存在も未だこれを確証することができないというべきである。このことは、単にわが国のみならず、諸外国においても同様の傾向にあると考えられる。

結局、現在の医学的知見では、じん肺と肺がんとの間の関連性が示唆されるにとどまり、直ちに高度の蓋然性をもって両者の間の一般的因果関係を認めるには至っていないというべきである。換言すれば、現時点における両者の間の関連性を肯定する各医学的知見も、未だ例示疾病の場合に準じる程度に強固な関連性を肯定しうる一般的な医学経験則として共通の認識になっているとは認められない。そうすると、これらの医学的知見に基づいて、政男のじん肺と肺がんとの間に因果関係があるとたやすく推定することはできないというべきである。

2  次に、被控訴人は、じん肺と肺がんとの間に一般的因果関係が認められないとしても、本件における政男のじん肺と肺がんとの間には、相当因果関係が認められるべきである旨主張する。即ち、政男の肺がんは、じん肺に合併した陳旧性肺結核の空洞瘢痕を発生母地として生じた瘢痕がんであり、瘢痕がんは瘢痕部へ再生上皮が形成される過程で異型増殖を生じがん化するものである。このように、肺がんの発生母地が明らかになっており、その発生機序も合理的に説明できるのであるから、肺結核と肺がんとの間に直接的な相当因果関係が認められ、結局じん肺と肺がんとの間に相当因果関係が認められるべきである旨主張するので検討する。

(一) 前記のとおり、病理解剖の結果、政男の肺がんは右肺下葉S6の結核性空洞瘢痕より発生したと考えられる瘢痕がん(組織型、腺扁平上皮がん)であり、政男は右肺下葉の空洞からの大量喀血による大量の血液吸引を原因として死亡したことが明らかである。

病理解剖記録(甲三、乙一六の一、二)には、肺結核に関しては「右肺に多発性、陳旧性肺結核」と記載されているが、じん肺合併肺結核と死亡との間に直接の因果関係がある趣旨の記載はない。

(二) 政男の病理解剖に関与した大分医大の中山巌医師は、平成二年六月二五日労働事務官による事情聴取に対し、「本症例のがん組織は、空洞を全周性に分布し、空洞の一部には再生扁平上皮が存在することから、空洞壁より発生したがん種が最も考えられる。すなわち、空洞を発生母地としたがん種と考える。これはいわゆる広義の瘢痕がんである。瘢痕が全てがん種になるものではない。瘢痕がんがいかなる組織型を示すかは瘢痕部の上皮の種類によるのであり、扁平上皮が多ければ扁平上皮がんが発生し、円柱上皮が多ければ腺がんが発生しやすい。政男の場合は腺がんと扁平上皮がんとが混在している。政男のがん種は、組織の一部を取り出したところがん種が発見されたもので、がん種の発生と喫煙およびじん肺との因果関係は病理組織学的には論じられない。最終病理診断は、解剖してみた事実をそのまま書いたもので、がん種があったという事実しか言えない。」と述べている。(乙二六)これによれば、政男の病理解剖の結果は、陳旧性肺結核の空洞壁に腺扁平上皮がんが発見されたことのみを示すもので、その発生原因は別途考察されなければならない。

(三) 諸家の意見

(1) 大分医大病院後藤医師(政男の肺がん治療の主治医、昭和五八年二月二日付け診断書、乙五の三)

「死亡原因とじん肺との因果関係については、じん肺と肺がんとの関係は不明だが、既往に陳旧性肺結核は存在しており、この肺結核はじん肺に合併したと考えられる。さらに病理学的にも陳旧性肺結核(S2エリア)の既存の肺病変に肺がんは隣接しており、死亡原因である血管破裂の原因となりえた可能性は否定できない。なお、肺がんと肺結核の発生の関係ははっきりしない。」

(2) 大分医大病院の田代隆良医師(本件処分に対する審査請求の審理の過程での大分労働者災害補償保険審査官からの鑑定依頼に対する意見。昭和六〇年七月三〇日受付。乙一九の一、二)

「一般に、じん肺合併肺がんは、じん肺に伴なう慢性炎症や線維化による上皮の異型増殖から発生するであろうといわれている。本例も、けい肺に合併した結核性空洞壁から発生しており、因果関係が示唆される。」

これは右の一般論が肯定されることを前提とするものである。

(3) 山本真医師(一九九〇年―平成二年―三月二九日付け陳述書、甲六)

瘢痕がんについて、「肺における瘢痕がんが発見された一九三九年以来末梢発生の腺がんについて、その原因仮説として末梢肺組織における瘢痕が指摘され、瘢痕の起源として結核性が多く、次いで、梗塞性との報告がされてきた。その後一九六〇年代以降の調査、研究の進展により、今日では、右の腺がん中心部の瘢痕は腫瘍により圧縮されたスペースであって、過去の瘢痕からがんが発生するものではないとの認識が一般的なものとなった。影山圭三は一九六六年、肺実質にあらかじめ存在した瘢痕を場として発生したがん種を狭義の瘢痕がん、結核性空洞壁、同灌注気管支壁などから発生したがん種を広義の瘢痕がんと区別することを提唱したが、この狭義の瘢痕がんは否定された。しかし、過去多くの医学者によって、末梢発生の腺がんのみでなく、様々な瘢痕がんが報告されてきており、その中には結核空洞から直接発生した類上皮がんの報告もあり、これらは明らかに瘢痕組織ががんに先行したものである。これは影山のいう広義の瘢痕がんである。もっともその絶対数は少ない。じん肺は瘢痕を豊富に有する疾患であり、肺結核症も同様である。現時点において疫学的な確認をまたずとも、じん肺症や肺結核症に広義の瘢痕がんが存在することは否定できない。瘢痕がんは、その発生の場となった瘢痕がなければ、生じない。したがって、じん肺の塊状巣や、本件の場合のようにじん肺結核巣から発生したと病理学的に診断されうる肺がんは、じん肺と肺結核の関連性が認められている以上、業務起因性が成立すると考えたい。」と述べ、原審での証人尋問においても同旨の意見を述べている。

(4) 大分県立病院第三内科山崎力医師(大分労働者災害補償保険審査官に対する昭和六〇年七月一六日付け意見書、乙一八の一、二)

政男のじん肺症と肺がんの因果関係の有無について、「政男は、S6に発見されたがん病巣に対し放射線治療を行うため当科へ転院したものであり、諸家の報告にみられる一般的合併率のうえからはその因果関係は示唆されるが、当科入院中の諸資料からは診断し難い。」

(5) 福岡労働基準局地方じん肺診査医小野庸(昭和六〇年九月六日受付の意見書、乙二〇の一、二)

「じん肺と肺がんの関係については学問的に種々論じられているが、個々の症例についてこれを明確にすることは困難である。」

(6) 菊地、奥田(甲一五の三)は、珪肺症に合併した結核と肺がんとの関連について「以前に結核の瘢痕に関連したいわゆる瘢痕癌の存在が問題にされたが、珪肺には肺結核の合併が多く、そのために肺がんを多く合併するのではないかという疑問が生ずる。しかしながら珪肺症における肺がんの合併は、結核を合併した例にむしろ少なく、合併しない例に多い。したがって肺結核の肺がん発生における意義については否定的である。」と述べている。藤澤、菊地(甲一三の二)も同旨である。

(7) 斎藤ら(甲四八の七)は、「肺結核に肺がんが合併するメカニズムについては定説はないが、古くから結核性瘢痕から発がんすると主張する瘢痕がん説が根強く続いている、じん肺合併肺結核が発がん頻度をより高める方向で影響しているかどうかは興味深い課題である。昭和四六年から昭和五九年に至る一四年間に珪肺労災病院において死亡したじん肺症例のうち、剖検が行われた二一七例(剖検率七六%)の剖検肺を材料として病理学的検討を行った結果、肺結核非合併じん肺症例が示す肺がん合併頻度は19.7%で、肺結核合併じん肺症例の肺がん合併頻度一〇%より明らかに高く、したがって肺結核がじん肺合併肺がんの発生頻度を高めていると考えにくい。むしろ、関係がないか、あるいは低める方向に影響している可能性を示している。」と述べている。

(8) 下里幸雄(乙四〇)は、「腺がんの発生については瘢痕を基盤とする説が有力であった。しかし多くの事実から多くの場合瘢痕はがん発生後に生ずるとの考えに立ち、少数ではあるが、微少な腺がん例を解析し、その大多数が瘢痕や過形成と関連なしに末梢気道にin situの状態で発生するとの考えに達した。一方、異型腺腫様過形成や少数の小型腺がんの解析で、腺がんのあるものが異型を伴った過形成上皮から発生する可能性のあることも知った。真の瘢痕がんは稀であろう。」と述べている。

(9) 長門(甲三二)は、「肺結核と肺がんの関係は未だ結論がでていない。影山らは肺結核の肺がん合併頻度は一%以下で、肺がんの肺結核頻度は高いが年令的な因子が多く、結核の瘢痕がんは少なく、結核病巣と特殊な関係にあるものではないと述べている。」という。

(10) 吉野貞尚(乙二五)は「じん肺に肺がんが発生する病理学的見解としては、じん肺剖検肺をしらべてみると、肺胞や気管支上皮の異型増殖や化生がしばしば認められるといわれている。これらの変化は一般に前がん状態と考えられるものである。またじん肺を瘢痕として考えた場合、瘢痕がんとしての肺がんの成立も考えられるが、このような肺がんの成立の報告は極めて少ない。」と述べている。

(四) 以上によれば、政男の肺がんは、じん肺(珪肺)に合併した陳旧性肺結核の既存の病変である結核性空洞瘢痕に発生したものであるが、結核ないし結核性瘢痕とがん発生の一般的因果関係は明らかでない。瘢痕そのものががん発生の原因となる考え方は否定されており、瘢痕の存在がその周囲に治癒機転として瘢痕を覆うような上皮の増殖を促し、正常細胞からの逸脱を生じてがんを発生させるとする見解も仮説ないし可能性としては理解できるが、瘢痕が常にがん種となるものではなく、多くの場合瘢痕や過形成と関連なしにがんが発生すると考えられるのであるから、瘢痕にがんが発見されたからといって、そのがんの発生原因が瘢痕にあるとは断定できない。

いわゆる広義の瘢痕がんの報告例が極めて少ないこと自体、瘢痕ないし結核性空洞等とがんとの一般的因果関係の存在に有意の関連を認め難い事情といえる。

(五) 喫煙の影響について

(1) 証拠(乙五の二、二一、弁論の全趣旨)によれば、政男(大正一二年九月二五日生)は、二一歳から四八歳までの約二七年間に一日二〇本程度の喫煙をしており、その後は喫煙本数は減ったものの、少なくとも昭和五五年頃まで喫煙を継続していたことが認められ、これに反する甲三〇、原審での被控訴人の供述は採用しない。右事実によれば、政男のブリンクマン指数は少なくとも五四〇(二〇×二七)となり、重喫煙者とされるブリンクマン指数四〇〇をはるかに上回っていること、ブリンクマン指数四〇〇〜七九九の相対危険度は5.2であることが明らかである。

(2) 厚生省が昭和四〇年から全国の六府県二九保健所管内の四〇歳以上の約二六万五〇〇〇人を対象とした「計画調査」と呼ばれる「喫煙と健康問題に関する報告書」(乙二四)によると、喫煙開始年齢が二〇歳以上で一日の喫煙本数が二〇ないし二四本の対象者では標準化死亡率は5.72とされている。

(3) ところで、「個々の症例に対して、最大の交絡因子となる喫煙の影響が大きいのか、またはじん肺病変が発がんに寄与したかは、本来疫学的議論では判定できるものではなく、症例に応じて個々の影響因子の大きさを病理所見などから評価することになる。こうした観点からは、組織の型の検討が重要となる。」とする見解(東、乙四八)がある。

(4) 山村雄一ほか監修の「内科学書2」(甲四八の五)によれば、喫煙者の肺がんには中心発生のものが多く、組織型では扁平上皮がんと小細胞がんが多いとされている。

(5) 前記厚生省編集の報告書(乙二四)によれば、清水弘之の組織型別肺がんのケース・コントロール研究(昭和五八年)では、扁平上皮がん、大細胞がん、小細胞がんと喫煙との間には密接な関係がみられるが、肺胞上皮がんを含む腺がんと喫煙の間には、ほとんど関係は認められず、多量喫煙者(ブリンクマン指数八〇〇以上)で軽度の肺がんリスク(相対危険度2.1)の上昇を認めているとし、西村穣他の研究(昭和五三年)は、扁平上皮がん、小細胞がん、大細胞がんと喫煙量の間に量・反応関係を認め、腺がんについても弱い量・効果関係を認めているとし、中村正和らの研究(昭和五九年)では、男では非喫煙者に対する喫煙者の肺がんリスクは小細胞がん、扁平上皮がん、大細胞がんで10.3ないし4.4、腺がんで2.8となっていたとしている。男のいずれの組織型についても喫煙と肺がんリスクの間に量・反応関係が認められた、としている。

(6) 廣畑高雄編「がんとライフスタイル」(乙四七、平成四年)では、「組織型別肺がんと喫煙」について、「最近では、腺がん(肺胞上皮がんを含む)も、扁平上皮がんおよび未分化がんほどではないが、喫煙と関連があるとする報告が続いている」との認識が示されている。

(7) 平成五年一〇月開催の第五二回日本癌学会総会において、祖父江友孝ら(乙七一)は「組織型別にみた喫煙と肺がんとの関係」について「非喫煙者と比べた現在喫煙者の肺がんリスクは、男の扁平上皮で18.1、腺で1.9、小細胞で21.4、大細胞で3.8となった。一日喫煙本数および一本あたり吸う割合などの喫煙量に関する因子は、扁平上皮がんにおいて最も影響が強かった。一方、煙を吸い込むか否かによるリスクの違いは、扁平上皮がんよりも、腺がんの方で、吸い込む者のリスクがより高い傾向にあった。」と報告している。

(8) これらの諸見解をもとに、政男の喫煙習慣と右肺下葉S6の陳旧性肺結核空洞瘢痕に生じた腺扁平上皮がんとの関連性について考えると、両者の因果関係の存在の可能性を否定することはできない。

(六) 以上を総合すると、政男の陳旧性肺結核の空洞瘢痕にがん種が生じたことをもって、直ちに肺結核と肺がんとの間に因果関係を肯定することはできず、その他政男のじん肺ないしじん肺合併肺結核と肺がんとの間の相当因果関係を認定するには未だ足りないというべきである。

3 以上のとおり、じん肺と肺がんとの関連については、多発する症例の報告や高率の合併頻度に関する報告は増えているものの未だ両者の因果関係を肯定する医学的状況にはない。

こうした現状に鑑み、じん肺と肺がんとの関係について、労働省は、専門家会議の報告を踏まえて、前記局長通達を発して、これにより措置すべきものとする基準を設定したものである。すなわち、同通達は、じん肺と肺がんとの因果関係は、医学的に明確ではないが、臨床上、高度に進展したじん肺病変の存在が、肺がんの早期診断あるいはその予後に悪影響を及ぼしているとみられる点を考慮して、特例的な行政上の措置として、じん肺管理区分が管理四と決定された者又は管理四相当と認められる者で、現に療養中の者に発生した原発性の肺がんのみを、業務上の疾病として取扱うこととしたものであって、同通達は相応の合理的な根拠を有するものというべきである。したがって、政男の所見をこれに適用した場合に管理区分三にすぎなかった本件においては、業務起因性を認めることはできないものといわざるをえない。

第四  結論

そうすると、政男の死亡は業務上の疾病に因るものではないとしてなされた本件処分は相当であって、これを違法として取り消した原判決は不当であるからこれを取り消し、被控訴人の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九六条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官佐藤安弘 裁判官宮良允通 裁判官松島茂敏は転補につき署名押印することができない。裁判長裁判官佐藤安弘)

別紙書証(文献)目録

甲九の一ないし五       佐野辰雄「溶接工肺の病理とその有害性」「じん肺と肺がんの関連性」日本のじん肺と粉じん公害所収、昭和五二年一月

甲一一     佐野辰雄「じん肺と肺がんの関連性―その病理学的検討」日本災害医学会会誌一五巻六号、昭和四二年一二月

甲一二     佐野辰雄「炎症とがん」労働の科学三六巻一一号、昭和五六年一一月

甲一三の二   藤澤泰憲、菊地浩吉「珪肺症と肺癌の合併についての統計学的検討」じん肺論文集、昭和五〇年三月(甲三九の一部)

甲一三の三   菊地浩吉、藤澤泰憲、神田誠「珪肺、肺癌合併例の病理学的検討」じん肺論文集、昭和五〇年三月(甲三九の一部)

甲一四     菊地浩吉、藤澤泰憲、神田誠、小玉孝郎「けい肺症の病理、とくに肺癌との関連について」じん肺論文集、昭和五〇年三月(甲三九の一部)

甲一五の二   千代谷慶三「じん肺と肺がんの合併に関する臨床医学的研究」日本災害医学会会誌二九巻三号、昭和五六年三月

甲一五の三   菊地浩吉、奥田正治「じん肺と肺がんについて―病理の立場から」日本災害医学会会誌二九巻三号、昭和五六年三月

甲一六の二   藤澤泰憲「珪肺症の臨床病理学的研究、Ⅱ珪肺症と肺癌の合併についての統計的検討」札幌医学雑誌四四巻四号、昭和五〇年八月

甲一六の三   藤澤泰憲「珪肺症の臨床病理学的研究、Ⅱ珪肺症合併肺癌とその発生母地に関する病理組織学的研究」札幌医学雑誌四四巻四号、昭和五〇年八月

甲一七     菊地浩吉「塵肺と肺がん」労働の科学三五巻七号、昭和五三年

甲一八の二   安田悳也ほか六名「じん肺症に合併した肺癌症例の臨床的検討」日本災害医学会会誌二九巻八号、昭和五六年八月

甲一九     海老原勇「職業性肺がんをめぐる現状と問題点」労働の科学三六巻一一号、昭和五六年

甲二〇     海老原勇「じん肺と肺がん―じん肺における発がんの母地を中心に」労働の科学三六巻一一号、昭和五六年

甲二一の二   海老原勇「粉じん作業と免疫異常―粉じんの免疫系への作用と自己免疫疾患および悪性腫瘍の発症要因」労働科学五八巻一二号、昭和五七年

甲二二     海老原勇「じん肺をめぐる最近の社会医学的諸問題」労働の科学三九巻一二号、昭和五九年一二月

甲二三     海老原勇「意見書、国際じん肺会議におけるじん肺と肺癌に関する動向について」昭和五九年六月五日

甲二四     海老原勇「第6回国際じん肺会議」労働の科学三九巻三号、昭和五九年

甲二六     大崎饒「職業性肺疾患、特にクロム肺癌、塵肺、農夫肺を中心として」第五七回日本産業衛生学会、第三六回日本産業医協議会講演集、昭和五九年

甲二七     千代谷慶三ほか一二名「じん肺と肺がんの関連に関する研究―労災病院プロジェクト研究結果報告」日本災害医学会会誌三五巻八号、昭和六二年

甲二八     藤澤泰憲「松山地裁昭和六一年(行ウ)第一号事件証人尋問調書」昭和六三年五月一八日

甲三一     海老原勇「じん肺と肺癌に関する病理組織学的検討」日胸疾会誌二七巻五号、平成元年

甲三二     長門宏「大分県佐伯市南海部郡における出稼ぎ隧道工事者(豊後土工)の珪肺における悪性腫瘍の臨床的研究―原発性肺癌を中心として」日本災害医学会会誌三三巻一二号、昭和六〇年

甲三三     佐野辰雄「札幌地裁昭和五二年(行ウ)第一一号事件証人尋問調書」昭和五六年一〇月一日

甲三六     千代谷慶三「札幌高裁昭和五七年(行コ)第二号事件証人尋問調書」昭和五八年二月二八日

甲三七     千代谷慶三「意見書」昭和五九年三月三〇日

甲三九     菊地浩吉、藤澤泰憲、神田誠、小玉孝郎「けい肺症の病理、とくに肺癌との関連について」じん肺論文集

甲四〇     森永謙二ほか五名「珪肺と肺癌、大阪における珪肺認定患者のコホート研究」日本災害医学会会誌三九巻三号、平成三年三月

甲四一     千代谷慶三、斎藤芳晃「じん肺症における肺がんのリスクについて―量・反応関係に関する一考察」日本災害医学会会誌三九巻一二号、平成三年一二月

甲四四     山本真「意見書、じん肺と肺がんの関連性および喫煙の影響に関して」平成四年七月

甲四五の一、二 L・シモナート、R・サラッチ「シリカ・ダストへの暴露と肺がんの関係に関する疫学的様相」シリカへの労働暴露とがんの危険性、一九九〇年(平成二年)

甲四六の一、二 S・ラゴリオほか五名「製陶作業者の肺がん死亡についての患者―対照研究」シリカへの労働暴露とがんの危険性、一九九〇年(平成二年)

甲四七の一、二 クレール・アンファン、リヴアードほか五名「肺癌死亡率と珪肺症」一九八九年(平成元年)

甲四八の五   山村雄一、吉利和監修「新訂第三版 内科学書2」

甲四八の七   斎藤芳晃ほか八名「じん肺症の病理学的検討―じん肺結核の肺癌合併例を中心に」日本災害医学会会誌三八巻四号、平成二年

甲四八の八    海老原勇「粉じん作業者の肺がん、Ⅶじん肺罹患者の肺癌」労働科学六五巻一一号、平成元年

甲四九     山本真「じん肺と肺がんの関連性および喫煙の影響に関して・補充意見書」平成四年一一月二〇日

甲五一     出本真「じん肺と肺がんの関連性および喫煙の影響に関して・再補充意見書―東、富永両氏の批判に答えて」平成五年四月二〇日

甲五二     山本英二「意見書・じん肺と肺癌の疫学的研究法について」平成五年五月

甲五四     山本英二「補充意見書・じん肺と肺癌の疫学研究法について」平成五年六月

甲五五     山本真、有澤豊武「意見書―水野氏の問題提起に答えて」平成五年六月三〇日

甲五六     山本英二「補充意見書2・じん肺と肺癌の疫学研究法について、水野、東両氏の所感への批判」平成五年一一月

甲五七     山本真「意見書・千代谷研究(労災病院プロジェクト研究)結果における有意差検定について」平成五年一二月一三日

甲五八の二   山本真「じん肺合併肺がんに関する研究・剖検輯報より観察したじん肺合併肺がんの相対危険度についての検討」日本災害医学会会誌四一巻一二号、平成五年一二月

甲五九     山本真「意見書・中災防報告書(じん肺り患者の病後の経過に関する調査研究結果報告書)を批判する」平成六年一月二二日

甲六〇     山本英二「意見書・中央労働災害防止協会(平成五年)『じん肺り患者の病後の経過に関する調査研究結果報告書』について」平成六年一月

乙一四     じん肺と肺がんとの関連に関する専門家会議「じん肺と肺がんとの関連に関する専門家会議検討結果報告書」(昭和五三年一〇月一八日)

乙二四     厚生省編「喫煙と健康―喫煙と健康問題に関する報告書・Ⅱ部第2章喫煙とがん」昭和六三年(乙三〇の一部)

乙二五     吉野貞尚「じん肺読本―じん肺診療二七年の記録」昭和六三年

乙三〇     厚生省編「喫煙と健康・Ⅱ部第1章総論、第2章喫煙とがん」昭和六三年

乙三四     横山哲朗「じん肺症における肺癌発生頻度に関する研究」平成三年三月

乙三五の一、二 世界保健機関、国際癌研究機関「化学物質の人に対する発癌についての評価に関するIARCのモノグラフ・シリカ及び数種の珪酸塩・四二巻」一九八七年

乙三六の一、二 J・C・マクドナルド「論説シリカ、珪肺および肺癌」一九八九年(平成元年)

乙三七の一、二 ヤン・M・M・メイヤースほか三名「オランダにおける無機粉塵に関連する肺疾患の疫学的調査」一九九〇年(平成二年)

乙三八の一、二 P・A・ヘッセルほか二名「南アフリカ金鉱山の白人鉱夫における珪肺症、シリカ暴露および肺癌の症例―対照調査」一九八六年(昭和六一年)

乙四〇     下里幸雄「肺癌・その組織発生、分化、予後因子について」日本病理学会会誌七二巻、昭和五八年

乙四一の一、二 チョタニ、サイトウ、オオクボ、タカハシ「日本の塵肺患者における肺癌リスク、特に珪肺患者について」

乙四三の一、二 A・G・ヘプレストン「シリカと塵肺症と肺癌」一九八四年(昭和五九年)一一月

乙四六     和田攻、長橋捷、柳沢裕之「じん肺症における肺癌発生頻度に関する文献的一考察」平成四年三月一〇日

乙四七     廣畑富雄編「がんとライフスタイル」平成四年三月

乙四八     東敏昭「意見書―じん肺と肺癌との関連について」平成五年二月

乙五〇     (社)日本化学物質安全・情報センター「発がん性物質の分類とその基準―発がん性物質リスト」平成四年一〇月

乙五一の一、二 富永祐民「広島地方裁判所平成元年(行ウ)第一七号事件証人尋問調書」平成五年二月八日及び同年三月二二日

乙五二     水野正一「じん肺と肺がんとの因果関係に関する一考察―山本意見書及び千代谷研究の問題点」

乙五四     大崎饒「じん肺の今後の問題点―第8回国際職業性肺疾患会議に出席して」労働衛生三九五号、平成五年二月

乙五五     森永謙二「第8回国際職業性肺疾患会議に参加して」労働の科学四八巻二号、平成五年二月

乙五八     千代谷慶三「意見書」昭和五八年一月二四日

乙五九     千代谷慶三「意見書」昭和五九年六月二〇日

乙六〇     チヨタニ、サイトウ、オオクボ、タカハシ「日本のじん肺患者における肺がんリスク・特にけい肺患者について」(乙四一の一が原文、乙四一の二とは訳者を異にする)

乙六一     東敏昭「補充意見書・じん肺と肺癌との関連について―山本英二氏の見解に対する所感」平成五年九月

乙六二     水野正一「山本英二『補充意見書 じん肺と肺癌の疫学研究法について 一九九三年六月』に対する所感」平成五年九月

乙六八     松島泰次郎「国際がん研究機関(IARC)による化学物質のヒト発癌性リスクの評価」産業医学レビュー一巻一号、昭和六三年

乙七一     祖父江友孝ほか一〇名「組織型別にみた喫煙と肺がんとの関係」日本癌学会総会記事第五二回総会(仙台)平成五年一〇月

乙七五     中央労働災害防止協会「じん肺り患者の病後の経過に関する調査研究結果報告書」平成五年

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